静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

感想大掃除2017②(新作映画110〜112)

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GODZILLA 怪獣惑星』

監督:静野孔文

脚本:虚淵玄

出演(声):宮野真守櫻井孝宏花澤香菜杉田智和梶裕貴諏訪部順一小野大輔三宅健太堀内賢雄中井和哉山路和弘

 

まず一個言いたいんだけど僕はこのアニゴジが三部作を予定してるのを一ミリも知らなかったのでとりあえずラストシーンとエンドロール後で「ぇっ」と声を出した。

 

とにかく冒頭の怪獣及びゴジラの地球侵攻、地球を離れた人類たちの状況、地球奪還作戦までクライマックスのゴジラのバトルまではとにかく延々説明が続く。なんならゴジラとの対決中も通信で延々説明を続ける。三部作前提であれば「まあ最初だし」と自分を納得させつつ観られたのかもしれないけどそうではなかったので率直に非常に退屈に感じた。

 

更に聞き慣れた声の方々が総出演なのもあって、キャラクター達に新鮮さがなく、その点でも辛かった。結構言われてるけど、特に主人公はマジでエレン・イェーガーすぎて。俳優は全身の演技に加えてメイクや衣装も手伝うけど、声優って声だけで幅利かせなくちゃいけなくて大変だあね。

 

もっと言うとSF的な描写にも全く新しさが感じられなくて残念だった。アニメにもSFにも詳しくない僕ですらこう思わせてしまうのはどうなんだ。

 

ただ説明の行程を経た2以降は面白くなりそうな感じはすんだよな〜〜。

 

 

ローガン・ラッキー

監督:スティーブン・ソダーバーグ

出演:チャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ライリー・キーオ、ダニエル・クレイグセス・マクファーレンケイティ・ホームズ

 

チャニング・テイタム演じる主人公は学生時代に頭角を現した直後にケガでリタイア。仕事はクビになり、妻と娘に逃げられ、仕事はクビ。『海よりもまだ深く』の阿部寛並にないない尽くし。逆転の方策としてイラク戦争で片腕を失ったバーテンの弟や収監中の金庫破りジョー・バングとレース場の金庫を頂く決意をする。

 

予告の感じからギャグ成分多めの田舎ボンクラ版オーシャンズ11だと思っていた。そんな第一印象をはるかに超えてゆるくて盛り上がりを作らない。すごいことをやっているはずなのにあまりそういう風に見えない。良い意味で観た後に何も残らない感じが面白かった。

 

 『全員死刑

監督:小林勇貴

出演:間宮祥太朗、毎熊克哉、六平直政入絵加奈子、清水葉月、落合モトキ、藤原季節、鳥居みゆき

 

仕事終わりに時間の合う回に駆け付けたら小林監督と町山智浩の上映後トークショーつきだった。小林監督はフランスの映画祭でフルチンで観客の首を絞めたり、Twitterでヤンキー言葉で息巻いたりしてたんで当然ヤバい人なんだろうと思っていたら、腰が低く礼儀正しい好青年で驚いた。重鎮の町山さんと一緒だからってのもあったんだろうけど。

 

映画に対しても同じような感想を抱いた。ビジュアルからもっとヤバいものを期待していたけど、思いの外きれいにまとまっていた。よくも悪くも。やっぱりオチのつけかたが弱い感じはしたなあ。音楽の使い方と役者はすっげよかったです。「物知り博士じゃんね」とかいうパンチラインもグッド。俺は家族のために人殺しできないやつでよかった。

 

 

感想大掃除2017① (新作映画107〜109)

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個人的に多忙につき感想がたまる一方、もう年末、年末は大掃除!というわけで一気にやっちゃう!タイトにまとめる練習も兼ねて!じっくりやれなくて申し訳ない!

 

 

 

『劇場版シネマ狂想曲 名古屋映画館革命』

出演:坪井篤史、白石晃士 他

 

名古屋にあるミニシアター、シネマスコーレの副支配人坪井さんに密着したドキュメンタリー(元はテレビ番組)。まず一個人の映画ライフをじっくりと垣間見れる機会はまずないのでそこが面白い。まして被写体が映画狂人と言っていい坪井さんなので尚更だ。

 

一言で映画好きと言っても僕のように家では殆ど観ないけど映画館にはそこそこ通ってる人もいれば、その逆の人もいる。ジャンルの好みも多種多様。坪井さんはその中でも超エッジが効いてる。聞いたこともないC級アクション映画のVHSを収集しているかと思えば、映画館ではキラキラ青春恋愛映画を観る。

 

坪井さんは、僕のようないじいじ考えるような感じでもなく、カラッと映画を楽しんでいる。なんならネタにしていじったりする。それも愛ゆえで、形はひとそれぞれでいいんだとちょっと安心した。ただ彼がスコーレでやってる「面白いこと」は現場だけじゃなくて前段階から見せて欲しかったかな。なんならあまり面白そうに見えなかった。

 

 

マイティ・ソー バトルロイヤル

 監督:タイカ・ワイティティ

出演:クリス・ヘムズワースマーク・ラファロトム・ヒドルストンケイト・ブランシェットテッサ・トンプソンアンソニー・ホプキンスイドリス・エルバジェフ・ゴールドブラムカール・アーバン浅野忠信ベネディクト・カンバーバッチマット・デイモン

 

出演が豪華すぎてビビる。こんだけいて皆名前は知ってる。そしてマット・デイモンはどこにでてたんですか。

 

ソーシリーズ前二作も予習で直前に一気に観た。結果的に三作とも異なるテイストがあって楽しめた。この振れ幅がソーシリーズの懐の深さかななんて思ったりもした。キャプテン・アメリカがいきなりコメディーになったら嫌だ。

 

2にあたる『〜 ダーク・ワールド』がロンドンの曇り空もあり暗くて鈍重だったのもあって、ビビッドな画面や軽快な作風への振れ幅に良い意味でクラクラした。

 

反面ソーに起こる出来事が重すぎてビビった。アイデンティティを剥ぎ取られまくった彼の行く末が気になる。インフィニティ・ウォーに期待だ。

 

 

彼女がその名を知らない鳥たち

監督:白石和彌

出演:蒼井優阿部サダヲ松坂桃李竹野内豊

 

ヒロインの蒼井優は、金持ちでイケメンの竹野内豊に未練タラタラな中、不潔で貧乏なオッサンの阿部サダヲと同棲中。そんな中松坂桃李と肉体関係を持ってしまう。

 

ロクなやつが出てこない。観てて落ち着ける人物がいない。エアホッケーのパックが如く心がロクデナシの間を右往左往するばかり。

 

下心を持って人に近づく人間に惹かれてしまう人間がいる。真心を持って人に近づく人間に微塵も惹かれない人間がいる。自分に与えてくれる人に惹かれる人間がいて、自分が与えたいと思う人に惹かれる人間がいる。

 

阿部サダヲ蒼井優に紛れも無い、溢れんばかりの愛を持っていた。それは最後まで変わらなかった。最後の選択も間違いなく愛ゆえのものだと思う。しかしああでもしなければ蒼井優がその愛を受け入れなかったのかもしれないと思うと少し悲しい。しかも気付いた時には蒼井優はその愛を失ってしまってるのだから尚更。与え続けることこそ真の愛なのかもしれないですね。

 

松坂桃李蒼井優とヤるとき「『あーー』って言って」っていうのを2回やるのがよかった。

 

 

 

 

新作映画106: 『スウィート17モンスター』

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監督:ケリー・フレモン・フレイグ

出演:ヘイリー・スタインフェルド、ウッディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ブレイク・ジェナー、ヘイリー・ルー・リチャードソン 他

 

あらすじ。主人公のネイディーンは17歳のJKなのにセックスはおろかキスも未経験。友達は親友のクリスタのみ。兄貴のダリアンはイケイケの人気者でルサンチマン抱えまくり。あろうことかクリスタとダリアンが一夜の関係をきっかけに交際開始。彼女にとっては最悪の結託。シングルの母親はメンヘラ気味、教師は無気力。どうするネイディーン!

 

キネカ大森で名画座二本立てと称して『アメリカン・スリープオーバー』と併映されてたので観てきた。『イット・フォローズ』が好きなので当初はそっちが目当てだった。

 

しかし今作は思わぬ拾い物どころか今年の観た中でも有数にパーソナルなとこに刺さる話だったことは最初に言っときたい。いや、ていうか思春期にある程度こじらせた人なら誰にでも思い当たる内容だと思う。そういう意味ではむしろキャッチーな映画ですらある。

 

世の中バカばっか。人が知らない、気付かないことを把握してるが故の不幸を俺は知っているーッ。

 

という思春期こじらせ病の後遺症。いや、今も自分の身体から張り付いて離れない影。電車に乗ってる時や街中にいる時、テレビの街頭インタビューを見て未だに思う。ノーテンキでいいですね、自分勝手に振舞ってご立派ですねなんて。

 

2016年のマイベストシネマ『何者』は、有村架純二階堂ふみが素晴らしい演技でもって、紛れもなくこの思春期の歪さが生んだマインドをピンポイントで串刺しにしてきた。死ぬ思いだった。厳しい追及だったけど彼女たちも銘々抱える恐れや覚悟や事情がある。

 

この『スウィート17モンスター』も印象としては近いものがある。自分だけが不幸と思い暴走する主人公が、最後には周りの人の弱さや悩みに目を向けられるようになる。違うのは過程に笑いがふんだんに盛り込まれて最後にはハッピーエンドを迎えるところかな。エンタメ色が強くて単純に面白かった。むしろ17歳でこの境地に達したお前はすごい。お前は眩しい。幸せになれ。お前はなれる。

 

ヘイリー・スタインフェルド演じるネイディーンは今年のベストヒロインに決定!(今から観る『勝手にふるえてろ』の松岡茉優に塗り替えられなければ笑)

 

新作映画105: 『ジャスティス・リーグ』

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監督:ザック・スナイダー

脚本:クリス・テリオ、ジョス・ウェドン

出演:ベン・アフレック、ヘンリー・カビル、ガル・ガドットエズラ・ミラージェイソン・モモアレイ・フィッシャーエイミー・アダムスジェレミー・アイアンズダイアン・レインコニー・ニールセンJ・K・シモンズキアラン・ハインズアンバー・ハードジョーモートン

 

 

2017年は映画を観るようになってから所謂エンターテイメント大作、とりわけアメコミ映画(ヒーロー映画)を一番よく観た年だった。そんな今年を締めくくるのはマーベルと並ぶアメコミ二大巨塔・DCコミックスが満を持して送るヒーローチーム映画『ジャスティス・リーグ』。

 

前作の『バットマンvsスーパーマン』はそこそこ楽しく観たものの直後に観たマーベル『シビルウォー キャプテン・アメリカ』に全てを吹っ飛ばされ二人の母親の名前がマーサということしか覚えてない。 あとスーパーマンは死んだんだった。

 

いつものバットマン活動中宇宙からの尖兵一匹をやっとの思いで確保した社長。普段はゴッサムシティを守る街のヒーローだが、なんせ世界の希望を殺した前科持ちなので自分が責任を取らねばなるまいと、持ち前の財力と有能執事アルフレッドを駆使し地球を守るヒーローチーム結成に奔走する。

 

しかし出向く先々問題児だらけ。優等生なのに過去のトラウマで一歩先に進めない、友達欲しいけど戦いとか無理、使命だけどやだな、自分のことが分からなくて怖い。なによりウェイン自身が後悔に囚われまくっている。あと元から群れるタイプじゃないから幹事も苦手。

 

ただこの単独主義者の腐ったミカンたちがなんやかんやでチームとして結束していく様がなんとも微笑ましく元気付けられる。一人でできなかったことが5人ならできるようになる。You can’t save the world alone.あるキャラの「それがチームですよ」というセリフにはかなりグッときた。

 

もうね、このエモさは監督が誰とかどこの会社の原作だとか前作がどうとか一切関係ないと思う。個人主義者のヒーローたちが「世界や命を守る」という使命の下結束し、互いの弱さを分かち合って最後に笑い合う。もうこれだけで最高だ。加えて新キャラ3人の紹介や銘々の見せ場を過不足なく2時間でやり抜いたことに拍手を送りたい。

 

こっから本当野暮を承知で言うなら、これは僕が(個人的に今年ワースト級にがっかりした)パワーレンジャーに求めていたものでもある。そしてマーベル社のアベンジャーズ では最早見られないであろう作風でもあった。

 

惜しむらくはあの男まわりね…。やっぱあいつの扱いの難しさだよね……。スローでこっち見んなとかダイナミック引越しとかは大好きだけど。

 

新作映画104: 『ブレードランナー2049』

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監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演:ライアン・ゴズリングハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、シルビア・フークスロビン・ライト、マッケンジー・デイビス、デイブ・バウティスタ、ジャレッド・レト

 

※内容、展開に触れております※

 

恥ずかしながら前作『ブレードランナー』を未見だったので、丸の内ピカデリー爆音映画祭で観てきた(ちなみにその前家で観ようと試みたら冒頭の机を挟んで向かい合って話すシーンで寝た)。

 

話としては見たことあるような感じの集積で別に面白くはなかった(後年に影響を与えた往年の名作始めて観たときあるある)。ただ美術、衣装、照明などの視覚に訴えてくる力が抜群で、それだけで最後まで観れてしまった。特に暗い2019年のロサンゼルスをありえそうで退廃的、でもかっこよくて魅力的に描いた美術はそれだけで劇場に足を運んだ価値があったと思える。ジャンルとしてSFがそれほど好きな訳じゃないんだけど、やはりより世界に没入できる映画館で観ると楽しい。

 

2049の話。主人公のKはレプリカントであり、刷り込まれた他者の記憶をもってる。レプリカントと人間の間の子の捜査を通してその記憶の場所に辿り着くと、自分が探している選ばれし子なのではないかと思い始める。しかし実際Kはダミーで、本物は別にいた。ここで終わってもいい話だけどKはデッカードを守り、実子の元に送り届け物語が終わる。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴの映画は『メッセージ』しか観たことないんだけど、メッセージの監督っぽい話だなあと感じた。共通してるのは両作とも「記憶」を通して自らのやるべきことややりたいことに辿り着く話ってところなんだろう。そのプロセスが物語と人物の行動で丁寧に紡がれていくイメージ。やっぱり極めて優等生的な映画作りをする人だと思う。悪く言えば角が全くないというか。この映画も含め僕はそこに物足りなさや退屈さを覚えるけどそれは好みの問題だと思う。その丸さは今回ビジュアルにも現れてるかなあ。尺の長さも相まってとにかく興味を引っ張ってくれる燃料不足感が否めない。

 

ビジュアルの話については現実ので目にしてるそれの問題もあると思う。監督も言ってたらしいけどappleの製品が世に与えたインパクトはでかくて、(おそらく多分)『ブレードランナー』以前のフィクションが思い描いていた単色でフラットなデザインの未来が一部叶ってしまったんだと思う。それに慣れた僕のような観客にはこの映画の未来観は少し弱いというか。まあ大前提として直前に観た前作のビジュアルインパクトがどうしてもね。うん。

 

総じて続編として正当性は満たしつつもうちょっと尖った一発は欲しかったなあという印象です。

 

 

新作映画103: 『わたしたち』

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監督:ユン・ガウン

出演:チェ・スイン、ソン・ヘイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン

 

ノーマークだったけど僕モテメルマガで知って、初めてMOVIX昭島に行った。ロビーの無重力マッサージチェアが気になった。

 

クラスの人付き合いが上手くいってないソンちゃんは夏休み前最後の放課後に秋からクラスに転校してくるジアちゃんに出会う。夏休みを通して二人は仲良くなるが、新学期が始まるとジアちゃんの様子があれ、なんかおかしい…。

 

 なんかツイッターでまわってきた漫画でさ、人類が狩猟採集生活をしてた時、男は外に狩りにや採集に出かけるから話し合って協力しなきゃいけなくて、かたや女性は洞穴の中で作業しながらお喋りするから話を通して周りに同調するようになった、みたいのが流れてきたんですよ。本当かどうかわからないけど納得度は高いよなと思って。

 

小学生の時、女子は派閥や一匹狼に分かれてケンカばかりしていたイメージ。小6の時なんかの時間に男子は廊下に放り出されて女子は教室の中でケンカの話し合いを先生を議長にしてやってたのははっきり覚えてる。

 

性差の話をしたいわけじゃないんだけど、まあ女の子はそういうのあるよなって子供ながら思ってた。今でも職場のパートのおばちゃん見てて思うしな。

 

この映画の上手くて残酷なところは二人を夏休み直前に出会わせて仲良くさせてからクラスという箱の中に放り込むところですよ。

 

もうちょっと大きくなってそこそこ人付き合いがうまくなれば、この映画は元友映画になってたかもしれないのよね。別にジアちゃんじゃなくてもいいし、疎遠になっても別のコミュニティでやればいいやって。でも小学生だからクラスは世界のほぼ全部なんだよ。(ちなみに英題は「The world of us」)。一人の友達でも分母が少ないから諦めるには重すぎる関係なんだよな。

 

ただそんな打算的な理由は大人の僕が考えたクソなアレな訳で 、経験値が少なくて不器用なソンちゃんにはジアちゃんとのそれまで人生で経験したことないようなキラッキラの思い出があるからその繋がりを保とうとする。まずそれが「あぁ…」ってなるわけです。

 

さらに、この映画のいいとこはここで終わんないこと。並のフィクションならソンちゃんの思いにジアちゃんが振り向いたとこで終わると思う。ただ、ここにボラちゃんというクラスのカースト上位の女の子が介入してくる。ソンちゃんも人間だから揺らぐ。この子がある種キーマンで、単なるクラスの人間関係の話を見たことない地平に導いてる。またこの子にも色々あるんだわ。一筋縄でいかないという形容がぴったりハマる。

 

そしてそして、どん詰まりの状況で思いがけない人物がMVP級の名言をぶちかましてくる。複雑に見えた人間関係の問題を、パラっと解きほぐす。本当にシンプルなことだったんだと。ここは本当にグッとくる。本人に一切そういう心づもりがないのもすごい。そうだよ、そうしなきゃいつまでもできないもんな。

 

そして映画は最高のラストを迎える。それは是非観て確かめて欲しい。今年のベストラストシーンだろうな。以下は観た人向け!おススメ!

 

 

 

※ここから冒頭とラストシーンのネタバレします※

 

  

 

僕はあのドッジボールの枠の中が彼女らが今まで見ていた世界(=クラス)だと思ってます。冒頭、一人で早々とそこから弾かれていたソンちゃん。「あぁ、この子はクラスから浮いてるんだな」とわからせるための状況説明のシーン(長回しの1カット)のように思えた。

 

紆余曲折を経たラスト、冒頭と同じシチュエーションなのに横を見れば、あの子がいる。

 

(冒頭とラストで同じことをやって意味合いが違うのは個人的なツボと繰り返し言っておきたい。おススメ教えてください。いや、事前に知ってたらダメか。)

 

映画的に言えば二人が同じカットに収まっている。冒頭で窮屈にソンの顔だけ捉えていたカットが、二人の顔を捉えることで何倍にも広がっている。映画のカットはその世界を切り取ったもの。それが一人でなく、二人の顔を同時に映すことで確かに広がっている。「The world of us」が広がっている。なんと映画的、感動的なラストだろう。唸った。

 

この二人がこの後どうなるかはわからない。仲良しのまま死ぬまで親友かもしれないし、2年後には別々の中学に進学して疎遠になるかもしれない。別になんでもいいと思う。お互いの存在が記憶に刻まれているだろうから。敢えていうなら、願わくば二人一緒にボラちゃんとも仲良くやってくれよというところかな。

 

全然どうでもいいけどこの二人がこのまま小中高と付き合い続けた結果『スウィート17モンスター』の親友コンビみたいなことになったらめっちゃ面白いよね。『わたしたち』のアフターストーリーとして観たらもっと笑える(台無し)かもね。

新作映画101&102:『あゝ、荒野 前篇・後篇』

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監督:岸善幸

出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、ユースケ・サンタマリア、木下あかり、山田裕貴高橋和也木村多江今野杏南、河井青葉、モロ師岡、でんでん 他

 

あゝ、荒野です。前後篇まとめて。元々劇場公開前からU-NEXTで配信してた関係なのか前篇の公開から1ヶ月経たずに早くもソフト化及びレンタル開始してるので是非観て欲しい。主演の菅田将暉、ヤン・イクチュンを始め上に挙げた役者たちがとにかく皆素晴らしい。ファイトシーンは圧巻。まあ通しで5時間近くあるので家で観るのはしんどいかもですがオススメです。

 

※展開のネタバレなどはしませんが、多少内容に触れます※

 

2021年。上下スウェットに近い格好をした新次(菅田将暉)がラーメン屋に入ってきてラーメンを注文する。傍らのサラリーマンの前にはトッピング全部乗せのそれが出され、手をつけようとする。虚ろな目でそれを凝視する新次。すると、爆発音。サラリーマンを始め店内の人々は外の様子を見に行く。新次も一応ダラダラそれに続く。隣、その隣の軒先で爆発が続く。新次は興味なさげに店内に戻ると、サラリーマンの頼んだ全部乗せラーメンに食らいつく。あゝ、荒野 前篇。

 

なんだこのアバンタイトルは。俺はボクシング映画を観に来たはずだろう。ん、2021年。そうか、これは近未来映画なんだ。日本国内でも爆発事件、もしくはテロが起きるような時勢になってしまってるってことなのか。しかしこの菅田将暉は気にも留めない素振りを見せている。そんなことは関係なく、目の前の欲求(ラーメン)に忠実な男だ。このアバンタイトルはなんだろう。何を意味しているんだろう。そんな興味で頭がいっぱいになった。

 

この映画が描いてる2021年は、(少なくとも僕が見るに)ディストピア奨学金を抱えた学生は老人介護か自衛隊の海外支援(とゆー名目の何か)に駆り出される。国内でテロが起こっている。東日本大震災で被災した子どもが大人になって荒んだ日々を送っている。自殺者が増加している。

 

そんな時代に生きる二人の男が運命的にボクシングに出会う。きっかけは方や復讐のため、方や住む家のため。基本的にこの二人は今の目の前と過去しか見てない。未来を見ようとしない。できない。とにかく過去を清算するために今を生きる。ボクシングという手段を用いて。閉塞的な時代設定が効いている。

 

前篇で目立ったのが新次と健二(ヤン・イクチュン)のボクシングパートとは別に進むもう一つのストーリー、自殺研究会のパート。街行く人に自殺したと思ったことがあるかどうかを聞いてその理由を尋ねたりするアレな集団。

 

ここは言ってしまえばこの映画の世界に蔓延する問題を説明するようなパートになっちゃってると思う。一応こっちにも前篇でクライマックスのようなものがあるんだけど、うん。前篇の時点ではこれが後篇にどう活かされるのか判断保留的な感じだったけど、後篇まで観ても有意義なパートだとは思えなかったしなんならこれで尺削れただろとすら思った。

 

ただ自殺志願者やそれを追う人たちを描写する意味が全くないとは思わない。なぜなら社会のビョーキに相対的にやられていく有象無象に対して、ただ戦いたいから戦う新宿新次(新次のリングネーム。前後篇通して一番笑ったのはユースケがこれを命名するシーンかも)の絶対性が際立ってくるから。

 

僕はこのことを端的に示しているのが前述のオープニングのシーンだと思ってる。最上級の社会問題と言って良いテロが起こす爆発より目の前の欲を優先する新次の絶対性のこと。命の危機から逃れることより生きるため(=戦うため)の食事を優先する獣のような男。中と外、相対と絶対、有象無象と唯一無二、逃げることと戦うこと、様々な二律背反がせめぎあう素晴らしい掴みだったと今では思う。

 

(ちなみに食べ物を使った演出だと前篇である人物がお弁当を一人で食べながらツーッと涙を流すシーンもとてもよかった。食べ方もいいんだよね。)

 

あとさ、この映画はボクサーの試合前のストイックな禁欲もちゃんと描写するのね。食事制限及び減量は勿論、足にくるからセックスも禁止。新次は普段は欲に突き動かされて生きてるようなヤツで、それは冒頭シーンとか、行きすがりの女とそれこそ獣のようにヤリまくるシーンでわかる。それを試合で全部解放するって理由から来るギラギラした感じにも説得力がある。

 

そして、ヤン・イクチュン演じるバリカン健二はそんな新次に憧れた有象無象の一人。虐待のトラウマから拳闘にも及び腰だったけど、ある理由から新次と戦うことを望み始め、力をつけていく。

 

この二人が戦う事になるのはまあわかっていたとしてもアガるし固唾を飲んで見守らざるを得ない。んだけど、惜しいのは二人が戦うその理由がなんとも弱いこと。ただやっぱりあまりに圧巻のファイトすぎてそんなことすらどうでもよくなってくる。なんならそれまで悲喜交々あったこの戦いを見守る二人の周囲の人物もどーでもよくなってくる。正直この対決は『クリード チャンプを継ぐ男』と比べても比肩するレベルだと思った。

 

後から考えれば言いたいこともある映画なんだけど、とにかく観た直後は座席からちょっと立ち上がれないぐらい食らった。それこそクリードぶりぐらいかもしれない。

 

渋谷シネパレスで後篇観て、すぐにiTunesBRAHMANの歌う主題歌を買って、渋谷から引き寄せられるように歌舞伎町の方に向かって歩いた。歩きたくなった。

 

新宿新次とバリカン健二のことは忘れられない。暗い近未来を生き、戦った二人の男を。