静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー029: 『アイアムアヒーロー』

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アイアムアヒーロー

監督:佐藤信
脚本:野木亜紀子
特殊メイク・特殊造形統括:藤原カクセイ
 
 
皆さんこんにちは!
ゴールデンウィーク、外に出ると楽しそうな顔をした人人人。楽しそうな奴皆滅べばいいのに!こんな日はカタストロフな映画を観るに限る!『太陽』もいいけど、ここはもっと血と肉でグチャグチャな方がスカッとするかな?!ん!!??ちょうど良いのやってるじゃん!!!
 
とかそういうわけではなく普通に友人に薦められて行ってきました『アイアムアヒーロー』。予告で「世界よ これが日本映画だ!」とか言っててさみーしふりーよとか思ったのは本当。でも観てみたら納得できる部分もあった。特に序盤は本当に口開けて観てました。『セッション』ぐらい開いてた。
 
ジャンル映画としてどういう展開になるかは観る人の99%がわかってると思うんですけど(逆に一切どんな映画か知らずに観たらそれはそれで面白そう)、わかってるからこそ冒頭から異変が観客の前に大々的に示されるまでの手順の踏み具合にニヤニヤしっ放しでした。例えるならジェットコースターで最初に登ってるところです。「ああ、やばいw高くなってきたww」と。カット毎に崩壊が近づきつつあるという情報が埋め込まれていて、お膳立てがとても上手でした。
 
ジェットコースターの例えで言うなら、ゾンビ映画という枠組み自体がレールの役割を果たしていると言えますね。どこに行くかはある程度わかってるけど、その上下左右の運動に振り回されるのが怖いし楽しいという。ジャンル映画全体に言えるかもしれませんけど。
 
満を持して崩壊するシーン、つまり落下を始めるジェットコースターはもう言わずもがな。「ああああああ落ちてるやばいやばい!!!!」っていう。街を封鎖して撮影してるんでしょうか、街の一部というスケール感が狭すぎず広すぎずでちょうど良い。視点が俯瞰とかせずに英雄の側に限られているのもパニックに巻き込まれた小市民ぶりを上手く出してるし。
 
僕モテで誰かが「スケールの大きい鬼ごっこ」みたいなことを言ってて、全く同じことを思ったんですけども。なんか非日常のワクワク感、祭感って言ってもいいかもしれませんけど、あのくだりはそういう高揚感、絶望感、臨場感に満ちてましたね。
 
あのタクシーもさ、知らない人と同乗したらどうなるかぐらいわかるわけですよ。普段僕は先の展開を考えながら観たりしない(目の前で起こってることを整理するので手一杯でできない)んですけど、ゾンビ映画だからさすがにわかる。乗ってるのが風間トオルっていうのがもう「はいこれからこういうことがおこりますよー!!!」ってキャスティングだけで表してるっていうさ。顔知ってる人が出てくると「この人もゾンビになるんだろうな。ワクワク。」って思えるから日本のゾンビ映画っていう意味で面白い。まさか彼女役が片瀬那奈だとは思わなかったけど。
 
正直タクシーのくだりが終わるまでがテンションとしてはクライマックスで、後はだらけては要所要所でアガりの繰り返しでした。とは言いつつ眼を覆ったり細めたりしながら終始ビビってましたけどね。
 
描いてることとしては、タイトルにヒーローと入ってるからには勝手にヒーロー論的なところを期待してしまっていたので「誰かの生命を守るために戦えば誰だってヒーローなんですよ」という最早手垢のついたどころか一般常識レベルのことしか提示してこないのは少しがっかり。でも主人公が「世界がひっくり返っても変われない」ような一般ピープルだから良いのかなとか思ってしまった。彼だって漫画というフィクションからそういうヒロイズムを受け取ってる(アウトプットまでしてる)わけだから、僕らと同じ立場にあるという意味でそれを実践するという最適解なのか。まあでも「それはわかってっから!」って思っちゃったんだよな。ガッツリ感情移入してもおかしくないところだったんだけど、そういう興味が勝って勝手に落胆してしまったってだけの話で。
 
漫画家の職業病ともとれるイマジネーションが先行して足が動かない演出とか、世界が変わっても欲が捨てられない小市民ぶりが生命を長らえさせるロジックとして機能してるのは上手な演出だなあと感心。しかも2回やってる上にギャグにもなってんだよ。原作にあるのかな?ところで、もしあるとすればそういう原作の良さってどこまで監督の手柄として見ていいのかなとか思っちゃうけど、取捨選択してるのもまた監督だからまあいいや。
 
だらだら書いてきたけど予想を遥かに超えた(主にZQN周りの)ルックでぶっ飛ばされたし、上述した演出も良いなと思うところあったし、なにせ前半のまさしくジェットコースタームービーぶりは無類に面白かった。そういう意味では僕の期待値を限界まで下げてくれた「世界よ、これが日本映画だ!」も功奏してたのかな?笑