静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー042: 『シン・ゴジラ』 鑑賞前の所感と1回目の感想。(ネタバレ無)

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総監督、脚本:庵野秀明

監督、特技監督:樋口真嗣

准監督、特技統括:尾上克郎

音楽:鷺巣詩郎

出演:長谷川博己竹野内豊石原さとみ高良健吾大杉漣國村隼片桐はいり斎藤工光石研、川瀬陽太、マフィア梶田、柄本明モロ師岡犬童一心KREVA嶋田久作ピエール瀧野間口徹三浦貴大松尾諭、入江悠、塚本晋也神尾佑、黒田大輔、津田寛治古田新太松尾スズキ小出恵介、諏訪太郎、鶴見辰吾平泉成柳英里紗余貴美子、渡辺哲、手塚とおる市川実日子前田敦子、中村育二、矢島健一高橋一生、浜田晃、吉田ウーロン太、橋本じゅん藤木孝小林隆原一男緒方明石垣佑磨野村萬斎

 


『シン・ゴジラ』予告

 

しばらく鑑賞前の所感です。

 

 『シン・ゴジラ』というタイトルが好きだ。新、真、神、罪(sin)、心、進、伸、震、辛…タイトルから既に解釈の余地がある。あと単純に響きが好き。声に出して読みたい日本語。

 

ギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』(通称ギャレゴジ)のヒットを受け、12年ぶりに国産ゴジラ映画が制作されるということが'14年12月8日に報じられた。その総監督を庵野秀明、監督を樋口真嗣が務めることが明かされたのが'15年4月1日だったらしい。主要キャストと正式タイトルが発表されたたのが同年9月23日。特報が12月9日、第一弾予告が'16年4月13日、新たな予告とCMが'16年7月。とにかく待った。待ちまくった。最後まで限られた情報しか明かさず、事前の楽しみを取っておいてくれたことに感謝。もしかしたら今が一番楽しいかもね。

 

なぜこんなに楽しみだったか。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』と同時上映された、庵野&樋口タッグによる『巨神兵東京に現る』が最高だったからに尽きる。こんなすごい映像にCGを一切使っていないなんて絶対嘘だと思った。不安を煽るような林原めぐみの語りもツボだった。エヴァQがあんなんだったという結果論もかもしれないが、「こっちを2時間観てえ」と心底思った。そしたらその2人がまた特撮やるって。しかもゴジラ。初めて聞いた時は上がった。

 

この5ヶ月は毎日のように第一弾予告を舐め回すように見返したり聴いたりしていた。手持ちカメラで逃げる群衆を撮影した特報を見た時は不安しか感じなかったけど、とにかくこの予告には巨神兵ゴジラでやってくれるんじゃないかと期待させるものがあった。荘厳で終末感漂う鷺巣詩郎の曲がまさにドンピシャだったのは言うまでもなく。

 

樋口真嗣監督の前作『進撃の巨人』二部作は前編の特撮パート以外は核爆弾級の酷さだったのを差し引いても、とにかくこの『シン・ゴジラ』が応援したい一本なことに変わりは無い。「エヴァ作れ」とか「進撃が〜」とかそういうネガキャンが多くて腹立たしかったというのもあるっちゃある。正直エヴァQと巨神兵並べて観て早くエヴァ作れって言う人の意味がよくわからん。断然特撮やってくれと思った。ちなみにエヴァは新劇場版は観ててこの3週間ぐらいでテレビ版と旧劇場版観ただけ。

 

怪獣映画の平場(怪獣が登場しないシーン)問題が(勝手に)ある。元来特撮の平場なんて怪獣のルーツや能力の解説パートとしか思っていないので期待してない。そんな観てるわけじゃないけど。正直個人的に『進撃の巨人』のワースト2である石原さとみ長谷川博己がメインという時点で尚更諦めている。んだけど、今回は政府の人間を中心とした群像劇的な要素もありそうなので若干期待が持てるかもしれない…。もしかしたら328名の人海戦術はドラマよりウォーリーを探せ的な楽しみ方をしてくださいということなのか。

 

僕が一番懸念しているのはゴジラの鳴き声。 ギャレゴジの大好きなのは、ゴジラの咆哮が大気遠いところまで響き渡っている感じがするところなのだけど、本作は予告を見る限り昭和ゴジラの鳴き声を張り付けただけのような感じがした。いやまさか本編でこのままってことは無いと思うけど。ギャレゴジは未だに今までで一番IMAXで観て良かったと思ってる作品でもある。それを更新してくれることを期待している。

 

庵野氏は一回きりの挑戦と言っているけれど、「早くエヴァ作れ」から「ずっとゴジラ作っててくれ」って言われるようになったらいいね。まあ今はエヴァ作れる感じになっているみたいだけども。

 

ここまでが鑑賞1時間前までの所感。最高で最悪の悪夢、見せてくれ〜。

 

 

ここから後は鑑賞後の感想。

7月29日、TOHOシネマズ新宿にてIMAXで鑑賞。

「ニッポン(現実)対ゴジラ(虚構)」というキャッチフレーズ以上にこの映画を表現できる言葉はないだろう。そのコンセプトを100%やり切っている。2016年、ポスト3.11の今の日本に現前する最高のゴジラ映画としか思えない。庵野秀明、よくやってくれた。

 

3.11の時記憶に残っていること。軽挙妄動な人たちによる食料の買い占め、放射能がれきの押し付け合い、最悪の人災たる福島第一原発事故地震二次被害の当事者じゃなかったけど、嫌なニュースを見た記憶ばっかり。その後、テレビでは絆、絆。綺麗事ばっかりで反吐が出る思いだった。僕は東京に居て実害も何も被っていないけど、3.11で何かこの国の皮が一枚剥がれてしまった様を観て、何ともやるせない気持ちになったことは覚えている。

 

かと言ってこの国を相対化して褒めちぎるのも(すいませんけど)気色悪いと思ってしまう。あんまりテレビは観ないけど、なんだか最近よく日本マンセーな番組をよくやっているような気がする。外人を日本に連れてきて日本の色々見せて褒めてもらって終わり、みたいな番組。自分の国を外人様に褒めて貰わなきゃ誇れないなんて何か嫌だなって。

 

そんな感じで、今まで日本という国に対して、何というかあまり関心が持てなかった。自分のアイデンティティの中に母国たる日本という存在が希薄だった。

 

でも、『シン・ゴジラ』を観て、まあ平たく言えば「俺日本人で良かったかも」って思った。それには2つ意味がある。1つ目は単純に台詞やテロップの情報量が多すぎて字幕ではとても処理しきれないだろうということ。(当たり前のことだけど)ネイティヴじゃなきゃ100%は楽しめないのではないか。特にこの映画は。後述するけどこの目と耳からの情報量の多さを余すことなく処理できることは絶対的に良い方に働いていたと思う。多分ネイティブでしか汲み取れないものが多いと思うんだよ。わかんないけど。

 

2つ目は登場人物たちのゴジラへの対処のスタンスが本当に日本人らしい点。これはネタバレにはならないだろうから1つだけ台詞を挙げさせてもらう。國村隼がごく当たり前のように、自分のやったことへのお礼に対して「仕事ですから」と呟くように言うシーンがある。多分この台詞が決定的に、この作品の人々のゴジラに対する姿勢なんだと思う。

 

予告の通り平場は政府やそこに協力する人間たちの群像劇だ。そこでは現場の人間一人一人が自分の仕事を持てる力を使って、誠実に、責任感を持ってやり遂げようとする様がひたすら描かれる。その多くの人の地道な努力の積み重ねが、シリーズでも間違いなく最大級の絶望感を以て描かれるゴジラをも乗り越えられるかもしれないという希望に繋がっていく様には、えも言われぬ嬉しさがあった。328人のキャストには、そういう「集団として動く日本人」を描くという意味がちゃんとあるように感じた。劇中(特に序盤)多用されるある演出も同じことを描きたかったからやってるんだと思う。どんなにテクノロジーが発達しても、どんなに絶望的な状況でも、土台になるのがマンパワーなことに(少なくともまだしばらくは)変わりはないのだろう。

 

そして、そうやって人知れず頑張る人々の努力のおかげで僕は3.11の後も生きられているんだって思えた。いくら壊されてもまた立ち上がれる気がした。「日本の大人って働いてばっかで気持ち悪!」ぐらいに思っていたけど、危機的状況になるとめっちゃ映える。皆かっこよかった。序盤の高良健吾が(予告にもある)笑顔で言うセリフとかちょっとウルッときたぐらい。

 

甘すぎる観方かもしれないけど、特に後半部、少なくとも僕には庵野秀明が3.11を通して観た日本を投影しているように思えた。そのおかげで嫌な思いしかなかったあの震災の記憶と日本人のことが少し好きになれた。別に政治的なことなどは一切関係なく、日本人の良いところを見せてくれてありがとうってだけなんですよ。

 

後半部と書いたけど、前半部の「もし現実の日本にゴジラ(不明巨大生物)が現れたら」というシミュレーションパートはどうだったか。個人的にここが抜群に面白かったのが本作で一番偉いと思うポイント。懸念していた平場を驚くほどに魅力的に、テンポよく見せてくれたのが僕の中の勝因として大きい。とにかく早口の台詞を矢継ぎ早にぶち込まれて、「困惑しつつも状況の中に放り込まれる」感じ、あまり安売りするもんじゃないと思いつつも『マッドマックス 怒りのデスロード』を連想した。

 

あとすいません、長谷川博己さんめっちゃ良かったです。石原さとみさんについては後編へ保留。

 

取り急ぎですかこんなもので。展開やゴジラの具体的なところや言いたいこと、タイトルの意味などはネタバレ込みで後編に回すことにします。

 

とにかく日本人は劇場で観るべし、ですよ。