静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー046: 『君の名は。』

f:id:gadguard-twitter:20160917201438j:plain

 

監督・原作・脚本・絵コンテ・編集・撮影:新海誠

出演:神木隆之介上白石萌音長澤まさみ市原悦子、成田凌、悠木碧島崎信長石川界人谷花音

 

 

ほしのこえ』は僕がまだ映画にハマる前、ロボットアニメを頻繁に観ていた時期にふらっと観た記憶がある。思えば唯一観た深海作品であった。『君の名を。』を観ている時に、やっぱり同じ監督の作品なんだなあなんて思ってちょっと懐かしくなった。

 

そういう感慨が湧き上がってきたのは中盤のあるネタばらし以降のことで、そこに至るまでのギャグを交えた軽快な話運びはポンポン笑いが起こっててもれなく楽しかった。前にも何かで書いたけど、劇場で笑うことに不慣れと思われる人たちに知らない不特定多数の人と笑いながら映画を観る楽しさが伝わればいいなあと思う。監督本人も「誰もが楽しめるエンターテインメントを」と言っているし、そういう作品がウケているのは映画館通いの者としては嬉しい。

 

特にRADWIMPSの「前前前世」をバックに入れ替わった2人がそれぞれの生活に順応していくくだりは疾走感と多幸感に溢れていた。間違いなくこの映画のハイライトだと思うし、ここのカットの連なりが観られただけでも「元とったな」と思える出来で、ひとしきり満足した。

 

ふと、昔母親が『クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃』を観に行ったあとに、一緒に行ったママ友に「冒頭の、みさえの普段の平日の朝の台所の様子をカメラ固定の早回しで捉えたくだりが面白すぎてずっと見ていたかった(大意)」という話をしていたのを思い出した。1シーンでも1カットでもそういうところがあれば気分が保てる、なんなら得した気分にもなれるってもんですね。『ゴジラ対メガロ』のダム決壊シーンとかね。

 

敢えて文句言うなら三葉の精神が入った瀧くんが奥寺先輩に気に入られる決定的なシーン(ある物を縫うシーン)は、そのシチュエーションまでの持って来方の無理矢理さもあって、今思えば全力で「ねえわ」と言いたいってぐらいだよ。ちなみに僕モテPodcastにそこを質問したら編集長の口から「奥寺先輩同性愛者説」というパワーワードが出てきたよ。画面に映ってないところまでしっかり考えられる観客になりたいっすね。

 

フィクションって良い意味で宗教みたいなもんで、自分の都合の良いようにこの世や自分を捉えられて気が楽になれば、それはフィクションの存在価値としてアリなんじゃないでしょうか。少なくとも気楽な一般大衆の一人としては。そういう意味でこの作品は、もしかしたら隣にいる人とは不可知な縁がどこかであったのかもしれない、あるいはそういう出会いがこれからあるかもしれないな、とちょっと気が楽になるような考えができる、優しい作品だったと思います。なんならちょっとウルっとくるようなシーンもあって、総じて申し分なく楽しめました。