静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー048: 『オーバー・フェンス』

f:id:gadguard-twitter:20161005143611j:image

 

監督:山下敦弘

脚本:高田亮

撮影:近藤龍人

音楽:田中拓人

出演:オダギリジョー蒼井優松田翔太北村有起哉満島真之介、優香、鈴木常吉、塚本晋也(声) 他

 

 

佐藤泰志原作の映画の3本目ということで「函館三部作」の最終章として位置付けられた本作。第二作である『そこのみにて光輝く』は人生ベスト級に好きな作品だ。異なる境遇のどん底者同士が、純粋で不器用な青年を通じてどうしようもなく惹かれあっていく様を痛切に描いていた。撮影、音楽、演出がそれぞれ主張しつつもぴったり調和していたように感じられた。

 

今回『そこのみにて〜』撮影と音楽、脚本のトリオが続投しているけど、特に前二つの主張がかなり抑え気味だったような気がした。僕の感じ方だとはっきり言って物足りなかった。撮影の近藤龍人は『太陽』でもロケーションの魅力を倍増するような遠景の撮影をしていたし、尚更そう思った。

 

エキセントリックな癇癪の起こし方が印象的だった蒼井優演じるヒロインが僕にはダメだった。原作では割に普通に女性だったのを、脚本の高田亮が佐藤泰志の他の作品のヒロインの要素を足してああいう風になったという。愛のない言い方かもしれないが、ただただ不気味で不快だった。演じる蒼井優本人が「マイノリティを肯定するのが映画」みたいなことをどこかで言っていて、それは全くもってその通りだと思うんだけど、ここまで肩入れできないマイノリティは初めてと思っちゃうレベルだった。

 

ただ、どこかで「実家内の離れで暮らしている上に夜中にガラスを割っても鑑賞してこない両親の家庭で育ったというところに孤独を感じた」という感想があって、描かないことで表現できるものがあるんだなと少し納得、反省。

 

オダギリジョーが物腰の柔らかい大人な白岩にすごくハマっているなあと感じた。喧嘩の仲裁したのに自分から率先して「悪かったね」とイキった若いのに謝れるところに素直に感心した。それだけにいきなり焼肉屋でダークモードに入った時は肝が冷えた。大人怖い。その後の北村有起哉宅での笑いの緩急に振り回されつつ楽しんだ。北村有起哉さん良かった。SPで病院テロリストやってたね。

 

松田翔太がやってた兄ちゃんの人の存在を軽視してるが故の人付き合いの巧さの嫌ーーーな感じはやっぱ上手に演じているから出るんだなあと思う。ただ松田翔太がやる程の役立ったのかとも思う。

 

ラストの着地は軽やかで、前二作が重々しかった三部作のシメには良かったのかもしれない。