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静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー049: 『ハドソン川の奇跡』 と9.11の記憶。

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監督:クリント・イーストウッド

脚本:トッド・コマーニキ

出演:トム・ハンクスアーロン・エッカートローラ・リニー

 

 

本作はクリント・イーストウッドが2009年1月にアメリカで起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故をベースに作り上げた劇映画です。機長のチェズレイ・サレンバーガー(サリー)と副機長のジェフリー・B・スカイルズは(最近また話題の)国家運輸安全委員会に「水上の不時着(査問の時点では墜落扱い)リスキーな判断は正しいものだったのか、空港への不時着が可能かつ適切だったのではないか」という旨の査問を受けることになります。物語は事故から数日後、サリーが自分の操縦していたエアバスが市街地に墜落する悪夢から覚めるところから始まります。

 

公共交通機関の事故は案外数が思い出せる。あれば大きく取り上げられるからなのだと思うけど。最近の飛行機事故だと2015年に台湾で街中の川に53人の乗客を乗せた飛行機が墜落し47人の死者を出したトランスアジア航空235便墜落事故なんてのもあった。

 


航空機事故映像 台湾機墜落 高速道路に直撃 ドライブレコーダーから撮影 Taken from the hit drive recorder in Taiwan machine crash highwa

 

韓国では船が沈み、アメリカではつい先日列車が脱線し、日本だとバスが崖下に落下したり。30年前には日航機事故、10年前には福知山線脱線事故もありました。

 

決してそれらの事故を比べる訳ではありませんが、そういった中でも世界中に衝撃を与えたのが2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件でしょう。僕も当時物心ついたばかりの子どもでしたが、その日の朝のことははっきり記憶しています。いつも通り自室からリビングへ階段を降りていくと、階段を降り切る前に母が走ってきて、僕に高層ビルに飛行機が突っ込む直前の画像のみが一面に印刷された新聞を突き出してきたのです。ズームインの羽鳥さんとか母のただならぬ様子から子供ながらに大事が起こっているということはわかりました。

 

「はっきり記憶しています」と言いましたけど、それはこの映画を観た今となってはの話かもしれません。この映画の冒頭、前述したサリーの悪夢のシーンを見たとき、あの日の朝のことを強く想起しました。太平洋を挟んだ向かいの島国の子どもですらこうなのだから、アメリカ人には刺激の強いシーンだったのではないでしょうか。冒頭にそういうのを持ってくる辺り、「あの事件を意識してこの映画を観て欲しい」というイーストウッドの狙いが見えてくるような気がしました。

 

だからこそ中盤、ある人物がそのことについて初めて台詞で触れるシーンはグッときました。そのこと自体もそうなんですが、あくまで軽く匂わせる程度のワードに留めているところにもスマートさを感じます。あそこで「我々はあの9.11で~」なんて普通の映画ならやりそうですけど、そうしないところに老境の余裕というか、そういうものがある。そういうクドいシークエンスを削った結果尺を96分に収めているところは本当素晴らしいよ。日本の老人みたいに説教臭くないのが偉いよ、イーストウッド

 

「その国が抱える過去のトラウマを、別の物語を走らせながら間接的に扱う」という意味では『君の名は。』を思い出しました。本作が実写で実話ベース、過去のその事件に今が希望を与えるというのに対して、『君の名は。』では極めてフィクショナルなアニメーションで、その事件が起こる未来を変えるという風に据えている。この対比がちょっと面白い。

 

話は逸れましたが、そういう重たいテーマを抱えている話でも、ラストの副機長の台詞だったり、さり気なく自身の過去作をカメラに写したり、ユーモアを忘れない余裕に安心感があって、観客を、特にアメリカ人を励ますために残り少ないであろうフィルモグラフィの中にこの作品を遺したかったのかなと少し思いました。素晴らしいー。