新作映画レビュー052.5: 『何者』を観た就活上がりのSNS中毒者/ネタバレ有(後編)
感想前編(ネタバレなし)はこちら
http://qml.hatenablog.com/entry/2016/10/24/113331
脚本・監督:三浦大輔
出演:佐藤健、菅田将暉、有村架純、二階堂ふみ、岡田将生、山田孝之 他
2回目を観てきたので内容に触れていきたいと思いますよ。観てない人は読まないことをお勧めします。
メインのキャラクター一人一人について書くことにしました。この文章がまた人の客観分析になっているという皮肉ね。
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拓人(佐藤健)
僕はこの映画を観た人5人から拓人に似ていると言われた。観ている時から自分でわかっていたのでノーダメージ、とはいかず、なんとも微妙な気持ちになる。
彼は自分が他人にどう思われているかということに対して臆病になる余り、率先して自分が他人を観察、評価しようとしている。先に動いて叩かれるより、後で動いて叩く方に回ってしまった人。(瑞月(有村架純)が隆良(岡田将生)に対して心情を吐露した後、すかさず追い打ちをかけてからその後を追って部屋を出ていくのとかもう後出し祭りで笑ってしまった。)
そして自分の分析が人に共感されたり、それを求めてフォローされる(フォロー数<フォロワー数である)ことが気持ちよくて仕方ない。すごくわかる。何人が自分の言葉に耳を傾けてくれてるか可視化されてる世界にいるんだから、求めたくもなるさ。SNSにおけるやり方が違うだけで隆良と理香にも言えることだけど、それは自信のなさの表れでもある。いつでもどこでも指先を動かすだけで人から認められた気分になれる。だからスマホが手放せないんです。
皮肉だなあと思ったのは、瑞月に実は「考え事をしている時眠るような姿勢になること、そして裏アカで周囲の人々の客観評価をしていること」をまた観察されていたこと。その上で自分を認めてくれた瑞月の言葉に涙する辺り複雑。瑞月に関しては演劇を見に来た時にちゃんと「面白かった」言葉にして言うべきだったとも思う。
冒頭の学科のクラスの新入生コンパで示されているけど、自分にできないことをする人を素直に羨ましいと思えるか、斜に構えて否定するかで何か変わるんだろうなと思ってしまった。真逆のスタンスの瑞月に惹かれるのもわかる(瑞月が光太郎に惹かれるのもまた自分にないものを持ってるからだと思う。後述。)。そういう人にこそ一番認めて欲しいんだろうなあ。
彼が暗いビルから明るい陽が差す外に出ていくラストシーンは本当に大好き。予告編の時点で「今のカット良いなあ」と思っていたので、この映画にハマったのは必然だったのかもしれない。
ちなみに、大学の喫煙室で隆良と拓人が喋っているところにサワ先輩がやって来て拓人だけを連れ出し、サワ先輩は室内(喫煙室の外)にタクトを置いて陽が差す屋外に出て行くシーンはこのラストの伏線と解釈したんですが如何でしょうか。
(追記:ソフトが出たので三浦大輔監督と原作の朝井リョウのオーディオコメンタリー版をみたらそういう意図の演出だったと監督が言ってた。嬉しい。室内にある透明な箱型の喫煙所を探すのが大変だったらしい。)
瑞月(有村架純)
瑞月が光太郎に惹かれていたのは、自分の人生を、自分が主人公である物語としてきっちり生きられる人だから、なのだと思った。
就活で超大手に内定が決まったという結果は関係なく、家庭環境に翻弄されて自分の志望を貫けなかった彼女にとって、「思い人に仕事の場で再開できるかもしれないから」という到底現実的とは思えない理由で自分を決められるような光太郎は余りに眩しい。
そういう芯の強さのようなものを就活以前から感じ取っていたのだろうと思う。それが就活で決定的なものになり、そういう光太郎に自分はふさわしくないと結論づける…おーんおーん。
そういうのもあって隆良に対する心情吐露の場面は辛い。前にも書いたけど「私たちはもうそういうところまで来たんだよ」という言葉は、同じようなことを思っていただけに響いた。こういう子が幸せになれなきゃこんな世界はクソでしょ。
光太郎(菅田将暉)
天真爛漫で憎めないアホを演らせたら菅田将暉に勝る人はいないのではないかと思う。
こういう遊び人ほど就活を順調にクリアしていくというのは割と聞く話ではある。対外的なスキルや容量の良さが関係しているんじゃないかと勝手に思っている。
「結局自分は就活が得意なだけだった」と虚しさを噛み締めながら語る横顔は印象的だけど、いやでも恐らく(中小の出版社ということを考えると)年収や労働条件をある程度犠牲にして夢を追った君は眩しいよと僕も思うし、君は会いたい人に会えるんじゃないかとすら思う。何にせよ頑張って欲しい。
あと僕も出版社の説明は何社か受けたんだけど、やっぱりどこも口を揃えて読書量は必要だと言ってた。彼は読書してるイメージがないと言われてるし、読書してるシーンもないけど、実際どうなんだろう。
理香(二階堂ふみ)
「○○しないと立ってられないの」が度々ネタにされている、というか意識高い系自体がネタにされている中で迫真のピエロぶりを見せてくれた二階堂ふみにとりあえず拍手。
そんな訳で僕は完全に拓人と同じ目線で小バカにしながら観ていたので、拓人に詰め寄るシーンは恐ろしくて仕方なかった。現実のSNSでも個人的にバカにしてる類の人に、フィクションの中で「お前私たちのことバカにしてるだろ?」と詰め寄られる体験はもう絶対忘れられない。そうかと思えば、「SNSで努力自慢しないと立っていられない程の不安を抱えて生きてる」ということを全力演技で示されて切ないやら申し訳ないやらで、観ていて本当に疲れた。
グループディスカッションで流れをぶった切って唐突に自分語りを始めるシーンは、極端にデフォルメしてはいるものの、自己PR意識の暴走を端的に描いた名シーンだと思う。やっちまった感が高すぎて見ていて一番キツかった。グループディスカッションで人の話を聞かずに自分の意見を喚き散らす奴は実際いる。
ちなみに僕はグループディスカッションの時、そういう人をフォローしたり意見を整理したり、思いつけばたまーに新しいアイディアを出したり、ここでも後手後手の拓人ぶりを発揮していたのを思い出したのもまた辛かった。
隆良(岡田将生)
臆病者その3。
就活を回避するための薄めの理論武装が痛々しいサブカル男子を装っているが、実際不安なので隠れて就活をやっている人。ただ1時間前に面接会場にくる辺り根は真面目なのだろうから憎めない。多分彼のとしては「周囲と同じでいたくない」というのは本音。逐一SNSで他人を気にしながら生きているから、相対的に自分はそことは違う線を行きたいという願望はあるのだと思う。
ただ彼も瑞月の言を受けてそっちの道を捨てたのだとするとやっぱり少し寂しい。彼が就活に悪戦苦闘するスピンオフが見たいような見たくないような。
美術館の「フリーペーパー」の原稿というのがまた絶妙。
烏丸ギンジ
この映画における超越存在。ネットの酷評を意に介さず、月1で舞台公演を行う勇者。自分も時折挿入される彼の舞台は正直ルックとしてダサいなと思っていたけど、途中の彼のツイートにはジーンと来るものがあったし、それ以降は全面的に応援していた。
結局勇気を出して「やる」奴が勝つし、偉い。
「リスクは負うものではなく取るものである」というのは内田樹の言だけど、意識的にリスクを取って行動しなければ何も得られないのだなと改めて思った。いや、彼は劇中では多分何も得てないけど、多分得るんだろう。その背中を押したのが拓人っていうのもまたねえ。彼もまた努力や人脈自慢をしないと立っていられない類の人であるというのもまた辛いけど。
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個人的に刺さりすぎてまともな文は書けなかったので、人物毎に思うところを述べてみました。いつも以上にまとまってないのはご容赦願います。
や、シンゴジラを抜いて今年ベストです。