静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー055: 『アズミ・ハルコは行方不明』  と『私たちのハァハァ』

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監督:松居大悟

出演:蒼井優高畑充希、太賀、葉山奨之、石崎ヒューイ、山田真歩、菊池亜希子、芹那加瀬亮

 

少し内容に触れます!

 

とってもお久しぶりです。約1ヶ月ぶりの投稿となってしまいました。投稿をサボってたというか映画館自体行けてなかった半分行かなかった半分で。気付けばもう年の瀬ですね。へえ。

 

松居大悟監督(弱冠30歳)の前作『私たちのハァハァ』は去年の僕のベストムービーでした。つまり生涯ベスト級。勿論前から期待はしていたわけです。

 

『私たちのハァハァ』が「女子高生たちが地元という現実の外に出て壁にぶち当たる話」と、言わばまっとうな青春映画だったのに対して、今作で描かれたのは「地元という現実から逃れられない人たちが真綿で首を絞められるように環境に追い詰められていく話」でした。真逆なわけですね。途中までは。結局アズミ・ハルコは行方不明になったのではなくそこから逃避していたわけで、逃避してからでなく逃避するまでの話という点でも『私たちのハァハァ』とは逆のアプローチで女性を描いている。

 

思えば松居監督のさらに前作の『ワンダフルワールドエンド』も最終的に女の子二人で逃避してるのかしてないのかという微妙なラインで落としていました。あれも相当フィクショナルな演出をしてましたけど。「女と逃避」は最近の氏のテーマなのかもしれません。

 

 逃避と言うとネガティブイメージなワードですが、それをポジティブに描いている点もまた一貫しています。「消えちゃえば?」と軽いノリでね。僕は松居監督のそういうところが好きだなと改めて思いました。逃げずに壊れるぐらいなら逃げた方がいいですよ。僕自身この国で生きていて逃げることに不寛容な空気を感じているからハマるメッセージなのかもしれません。

 

本作に関してはこの逃避のディテールを描かないところや女子高生ギャングの非現実的な演出、時制をシャッフルしているのは賛否分かれるだろうなと。トークショーにきた池松壮亮が「よくわからなかった」とコメントしていたのは笑いました。仲いいからなんだろうけど。僕も観てる時は少し戸惑いました。

www.cinema-life.net

 

時制のシャッフルに関しては僕は嬉しかった。嬉しかったというのも、個人的に「地方の閉塞感」ってちょっと食傷気味なので普通に見せられても辛かっただろうからです。ただ、執拗に繰り返される車での移動シーンとか、どこにいても同級生ネットワークが張り巡らされてて名前で呼ばれちゃう感じとか、痴呆老人に追いつめられる主婦とか、成人式の派手な格好とか地方演出もとても上手だと思いましたけどね。原人並みのジェンダー観なおじさんたちはちょっとやりすぎかなと思ったけど笑

 

そういう意味ではJKギャングもスパイスとしてアリだなあと。「徒党を組んで逃げずに戦う若い女性(ティーン)」という意味で晴子とは逆の方を選んだ結果と解釈しました。映画的に映える形の演出としてアクション(暴力)するギャングという設定が添加されたのかもしれませんね。

 

あとやっぱり現代を生きる若い女性の演出をさせたら右に出る人はいないんじゃないかってぐらい皆素晴らしかった。特に高畑充希は『怒り』に続いてやられたなー。もう大好きですもん。ピロートークのウザさ最高。

 

「若い女性を取り巻くキツい状況を甘やかしなしに描き、最後はこれ以上ないぐらい優しく落とす」という意味ではやっぱり『私たちのハァハァ』と同じラインだと思います。ハァハァは上げて上げて思いっきり落として最後にちょっとだけ上げるって塩梅が最高だったのでその点では及ばないかなーやっぱり。ただ併せて観ると通じる部分と逆の部分が見えて面白いかも。というわけで『私たちのハァハァ』もお勧めです!!!