静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画077: 『メッセージ』

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監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバーグ、マーク・オブライエン、ツィ・マー 他

 

 

※内容に触れてるので未見の方はやめましょう※

 

 

真・女神転生 STRANGE JOURNEY』というニンテンドーDS(上と下に画面が二つある携帯ゲーム機)のゲームがありました。ダンジョンRPGと呼ばれるジャンルのソフトで、敵の襲撃を退けながら未開のダンジョンを探索し、踏破を繰り返して行くのが基本の流れです。

 

上画面にはプレイヤーの主観視点でダンジョンが描かれており、マスで区切られたマップを冒険します。下画面には一度歩いたマスが自動的にマッピングされます。つまり、一度歩いたマスの部分は下画面の地図に表示され、主観で目の前しか見られなかったダンジョンを俯瞰視点で見下ろすことができるようになるわけです。

 

僕ら地球人類のものの見方が上画面のものだとするならば、エイミーがヘプタポッド達の言語を学ぶことで得た「現在過去未来を並列的に俯瞰して観ることができる」という思考法は下画面。それまで主観で一歩一歩歩くことで認識していた先の「未来」とそこから振り返ることで見えていた「過去」が、まさに視点を変えて真上から俯瞰できるようになってしまった。加えて「ここでは何が起こる」「どんな物に出くわす」ということまでわかってしまう。

 

いや、もっと言えば「ゲームをやる前にゲーム発売1ヶ月後とかに出る完全攻略本が完全に頭の中に入ってしまってる状態」みたいな感じなのかな。僕だったら多分プレイしません。それはただただなぞるだけの作業になってしまうからです。

 

ただ、これが実人生となれば話は別です。

 

地球人類が実感を持って過ごしている人生は、どんなに先がわかっていても決して作業にはなり得ません。まあこれは全く私見ですけど。

 

更に言うなら、人は生きる上で絶対に他者に何らか影響を及ぼしているはずです。僕はその究極が「他の命を生み出すこと」だと思います。

 

だから、この映画の(起こっている出来事に対してあまりにミニマルな)クライマックスには不思議な感動がありました。自分に起こることの全てが見通せて、夫も娘も失うことがわかっていても尚、その道を辿る事を決めた彼女の心境には、最早愛以外の何物もなかった、ように見えました。

 

 

そこに至るまでの過程も興味深かった。

僕の中では異星の生物とのファーストコンタクトものと言えば『劇場版機動戦士ガンダム00 A wakening of the Trailblazer』。最終的に宇宙から来た金属生命体と主人公は相互理解を果たすという点では『メッセージ』に近いんだけど、大きな違いは2つあって、それは

 

①言語を媒介とした相互理解ではない

(金属生命体は言語を持たず、対象と同化する事でコミュニケーションをとる)

②コンタクト〜終盤までは戦っている

(上記の性質を敵対行動と誤解した&自衛のため軍が攻撃を仕掛ける)

 

というところ。

 

異星の言葉を1から勘案したスタッフたちの創意工夫、イマジネーションには頭が下がる。彼らの出すサインを地球言語と擦り合わせて解読しいく様が面白いし、コミュニケーションを通してわかり合う喜びに満ちていた(そんなことを感じる余裕はなさそうだったけど)。僕がイタリアに行った時拙い英語でこっちの意図が通じた時のことを思い出す。だから僕モテの入江悠監督が書いてたけど、ここを描くことがまず新鮮。『第9地区』だって大好きな作品だけどそこはすっ飛ばしていた。

 

更にその言語自体がこっちの視覚に訴えてくるのもユニーク。文字の出方はイカが自衛のために水中で吐く墨を参考にしているらしい。言葉を武器と捉える彼らに相応しいモチーフだと思う。

 

一方通行で読むことを前提にした文字を使ってる僕らは「過去→現在→未来」と同じく一方通行的に時間を捉える。対して、円環構造の言語を使う彼らの思考法ではそれらを一体のものとして参照できるというのは説得力があるように見える。特にSF映画は画面の「それっぽさ」が大事だと思うので。

 

正直パーソナルな部分に刺さったとか、今年ベストとか、そこまでは行かなかったんですけど、やっぱり上質な作品には刺激される部分が多いんだなと感じました。注目作且つこちらが能動的に汲み取る部分が多い作品なので、他作以上に評論や感想を読んだんですが、観た人たちの熱量の高さと知見の深さに慄きました。そういうの込みで、というか観てる時よりアフターの方が面白かったかも。でも優れた映画ってそういうとこあると思うんですよね。

 

その中でも特にいいなあと思った感想をレコメンして終わります。

・映画Podcast - 無人島キネマ (ウシダトモユキさん)

http://ussii.net/cinema/2017/05/26/【航48『メッセージ』】/

・放談主義  (けんす。さん)

http://roomamole.blog107.fc2.com/blog-entry-739.html