静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画081: 『武曲 MUKOKU』

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監督:熊切和嘉

出演:綾野剛村上虹郎片岡礼子、神野三鈴、康すおん、前田敦子風吹ジュン小林薫柄本明

 

 

話としては「男二人が戦う」のみなので、とにかく画と役者の身体性でガンガン引っ張っていくようなところが新鮮だった。その二点においては文句無い。

 

まず画面の話。

ビジュアルと予告編の時点でキマっててかなり期待していた。監督熊切和嘉×撮影近藤龍人であればなおさら。

 

その二人がタッグを組んだ作品は、その場の空気感が劇場(或いは観てる場所)にまで侵食してくるような生々しさを帯びているイメージが強い。そこは期待通りの手腕が遺憾無く発揮されていた。あと村上虹郎が海辺で素振りしてるカットとか、時々ハッとするような画が入ってくる編集のメリハリというのかな。そういうのも良かった。

 

役者の話。

映画の話する時にもっともらしい言葉を使ってわかった感じになるのが嫌で、「身体性」とかいうのもその一つなんだけど、今回はそう言わざるを得ない程綾野剛村上虹郎が躍動しまくっていた。

 

村上虹郎演じる融が初めて竹刀を握るシーン、ワンアクションで剣道部員を倒すのがすんげーかっこいい。村上虹郎は全体的に圧倒的な主人公オーラがあって素晴らしかった。最早漫画のよう。遠く見ちゃってる感じの目とかもピッタリハマっていた。

 

綾野剛演じる研吾もほぼトゥーマッチなキャラと言っていいレベルだったけど、村上虹郎の圧倒的主人公力(言いたいだけ)と釣り合わせるにはあれぐらいでよかった…のかもしれない。そんな演技はともかくとしても、アクションと肉体はメチャクチャ仕上がっている。剣道部員多数に対して大立ち回りするアクションからは彼の役が抱え込んでる罪悪感とか投げやりな感じがバチバチ感じられて素晴らしかった。

 

柄本明村上虹郎を剣道の道にリクルートしたり、その観念的なところや綾野剛の境遇を説明する役割に収まっていてキャラとしては物足りない。でもやっぱり佇まいや表情に抜群の説得力があってて流石だなと感じる。

 

僕は武道というものにてんで縁がないし何も知らないのだけど、この作品から「試合相手に自分の弱さを切ってもらう」という考え方を学んだ。勝負の勝ち負けも大事だけど、その過程で切られた箇所に自分の弱さを見出し、その後の精進に活かすという考え方。

 

それが綾野剛演じる研吾の過去のトラウマを払拭し、過去にしか向けられなかった目線を未来に向けさせるというのは良いなと思う。ちゃんと剣道を題材にしてる意義がある。

 

例えば実際に剣道場に行って剣道を見て、その場でその考えを教わっても「ふーん。そうなのか。」としか思えないんだろうけど、こうやって物語の形で見せられるとスッと腑に落ちる感じがする。

 

まあただその払拭の過程の回想がちょっと甘々に見えてしまってノリきれなかったりもしたんだけど。ちょっと惜しさも目立つ感じではあった。画面とアクションを堪能しよう。