静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画085: 『ハクソー・リッジ』

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監督:メル・ギブソン

出演:アンドリュー・ガーフィールドサム・ワーシントン、ルーク・ブレイシー、テリーサ・パーマーヒューゴ・ウィービング

 

 

僕は普段好んで戦争映画を観ない。重苦しいイメージがあるしテンションが上がる訳でもないから。そんな自分の中で印象的な「戦地」の描写があった作品が漫画『キングダム』。中国の春秋戦国時代の話。確か主人公たちの初陣のシーンだったと思うんだけど、荒野の中に仲間と最前列にずらっと並ばされて、正面の土煙の向こうに敵もまた同じように整列している。すると将軍の号令と共に訳も分からないまま突撃させられる。これがラグビーやアメフトならいざ知らず、刃物を持った男同士が正面から全速力でぶつかり合うなんて恐ろしすぎる、絶対やりたくねえ。そんなことを思った。

 

『ハクソーリッジ』の戦地描写にも同じような感覚をもたらされた。だけど更に怖かったのは戦争が確実に「近付いてくる」感じがあったことだった。「敵国で起こっている戦争」が海を渡れば「目の前の崖の上で起こっている戦闘」に変わり、その中に一歩足を踏み入れれば「土と血肉が飛び散る混沌」に様変わりする。戦争という遠くの現実が、文字通り身を以て実感される。「近付いてくる」という形容がぴったりくる。シンプルに怖かった。

 

そこはまさしく問答無用の世界で、とにかくそこに放り込まれたのだから殺しあうしかない。互いが互いの主張を繰り広げる余地など一切ない(というかそういう段階が終わったから戦争などということになってるんだろうけど)。最早主義主張に意味などないような状況。

 

そんな中自分の信念を主張でなく行動で貫き通そうとする男一人。結果として彼は英雄として讃えられる。これはあくまで結果。もっと言えば彼の信念さえ「エゴ」と一蹴されてもおかしくない(そう判断しかけていたのに裁判まで開いてくれる米軍、自由の国を謳うだけあるなと思った。当時の我が国だったらワンパンで終わりでしょう)。

 

僕にあまり馴染みのないキリスト教的な価値観がノイズになるところはあったけど、極限状況下でも信念を貫く困難さ、尊さは強く感じた。それ以上ではないけどよかった。「声」が聞こえてしまうシーンが熱い。テリーサ・パーマーかわいい。