静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画115: 『ビジランテ』

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監督:入江悠

出演:桐谷健太鈴木浩介大森南朋篠田麻里子嶋田久作間宮夕貴、般若、坂田聡、岡村いずみ、菅田俊

 

初日と、10日あけて2回観た。1回目は正直何も分からなかった。ただただ郊外の街で起こる生臭いいざこざを目撃したのみだった。2回目で何の映画なのか、自分の中である程度まとまった感じはした。

 

※ネタバレしてます※

ちなみに無人島キネマPodcastに紹介してもらったものを貼り付けただけ。

http://ussii.net/cinema/2017/12/22/【航65b僕たちの『ビジランテ』(感想メール特集/

 


僕はこの映画を「分断」の話だと感じた。

 

まず主人公である3兄弟は、冒頭、父親の暴力によって一郎が家出することで早くも離れ離れになってしまう。何十年ぶりに3人で再会したかと思えば、二郎は一郎の持つ公正証書を撮影して早々と去ってしまう。川のシーンでは話し合う余地もない。三郎が一郎を兄弟3人での食事に誘うシーンも、恐らく一郎の薬物依存による手の震えでフイになってしまう。

 

そして彼らの周囲の人物も様々な形でバラバラになってゆく。岡村いずみさん演じるデリヘル嬢のアヤは一郎の暴力で店を辞め、一郎が死ぬことで間宮夕貴さん演じる彼女は失踪、三郎が死ぬことで残ったデリヘル嬢たちは結果的に職と居場所を失ってしまう。

 

自警団サイドに目を向ければ、自警団に入ったあの若者二人は逮捕され、在日中国人たちは住む場所を失い恐らく離れ離れになったことだろう。

 

では物語が始まる時から何も変わっていないのは誰か。それは市議会議員とグルのヤクザの頭。変わっていないどころか自分らの私服を肥やすためのアウトレットモール建造に着手する。

 

二郎はそのメンツの中で唯一自分が虐げる側にいることを自覚していた。三郎を事務所の出口で締め出したり、一郎が死んだことを察したから。しかし彼は人として弱く、妻子という守るべきものを持つため降りることができなかった。

 

虐げられるもの、或いは搾取される側の者たちだけが、死という形も含め分断され、街を牛耳る者だけがそのまま土地の上に居続ける。これは現代日本にに実際にある構図なのかもしれない。それをノワール映画というある種のデフォルメを用いて2時間で映画的に見せてくれるところが素晴らしい作品だと思う。

 

あと、無人島キネマのウシダトモユキさんの言ってた「この映画には橋がない」というのも分断というテーマを象徴しているのではないかと思う。「ないもの」に着目するのって難しいけど解釈の幅が広がるようで面白い。

 

ちなみにベスト台詞は般若さん演じる大迫さんの「時間がぬぇーずぉ!」。2017年の助演男優賞