静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画122: 『クリード 炎の宿敵』

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監督:スティーブン・ケイプル・Jr.

出演:マイケル・B・ジョーダンシルベスター・スタローンドルフ・ラングレンテッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド、フロリアンムンテアヌブリジット・ニールセン

 

前作の感想はこちら。

(今でも拙い感想だけど初期も初期なのでさらに恥ずかしい)

新作映画レビュー:003 『クリード チャンプを継ぐ男』 (+ロッキーシリーズ) ※ネタバレ無 - 静かなる備忘。

 

前作の『クリード チャンプを継ぐ男』が人生ベスト級に好きだ。故に上がり続ける期待値と無名の新人監督へのバトンタッチ要素に感じる不安がせめぎあったまま公開日を迎えた。1回目は公開日鑑賞にこだわるあまりコンディションも万全でなかったので、2回目は完璧な状態で判断したいと思い1週間でロッキーシリーズ7作を観返し、体調も万全に整えて赴いた。

(なぜか初見で微妙だった5がすげーよかった。)

 

1回目の印象が帳消しになったわけではないけど、シリーズ、とりわけロッキー4とクリード1へのリスペクトが詰まった素晴らしい続編だった。

 

何と言ってもかつてのロッキーの宿敵ドラゴとその息子ヴィクターが登場するシーンはすべて良い。栄光や名誉とは縁遠い現在の彼らの暮らしぶりと、それを表すようなウクライナの寒々しい空気感が伝わってくるファーストシーンで既に心を掴まれた。息子の単なる栄養補給でしかない飯の食い方(一人飯シーンのある映画は名作)とか、ドラゴの無慈悲な起こし方とか、喜びのない生活をずっと二人でしてきたんだなと。特に2回目は知っているだけに余計切ない。

 

アドニスは初めて公衆の面前で完膚なきまでに叩き潰され、子どもとかいう未知の生物まで抱えた受難が苦しい。僕は人生で一番辛い時というのは、辛い目にあってる時もそうだけど、解決すべき問題があるのはわかってるけど踏み出せずに悶々としている時でもあると思う。チャンピオンという立場にかかるプレシャーや、強敵への恐怖で動き出せないアドニスを見守るこっちも辛かった。だからこそ覚悟を決める瞬間のアドニスを背後から見守るアポロの構図は本当にグッときた。

 

そういう溜めもあってトレーニングシーンは「やったれやったれ」と拳を握って心中で応援した。熱砂の土地での猛特訓はドラゴ親子の寒冷地での粛々と行われるそれとは好対照でキマっていたし、シリーズでも観たことのない味があってよかった。ハイウェイのダッシュといい、水中でのトレーニングといい、この監督は要所の画面もハッとさせられる。

 

そんな二人の決着のつけ方の意味するところを考えると、もうこれ以上ない幕引きだったと思える。ロッキー4のやり直しでない上に、ドラゴの中の変化を言葉でないアクションで描いた、考え抜かれた結末だった。観終わった人の中から「あの敵の親子がかわいそう」みたいな声が方々から聞こえてきて、もちろん境遇を鑑みればそう思う。でもロッキーの言葉を借りるなら彼らもまた「自分を憐れんではいない」はずだ。あの行動をとったドラゴとヴィクターなら、本当の意味で自分のために戦えるだろう。試合後の1カットは冒頭と同じなのにまったく違うものに見えた。

 

全体の印象として、特に振り返りの予習などをせずに公開日に観た1回目は、ぶっちゃけそこまで来るものはなかった。するまいするまいと意識していたのだけど、やっぱり前作と頭のどこかで比較してしまっていた自分はいた。今作は前作より印象的なシーンが少なく、特に前半は割と淡泊な感じすらあって、ドスンとくる感じがなかったなという印象が先行した結果だと思う。敢えて言うならファイトシーンの迫力や、要所要所の劇的な演出はクーグラーの方が上手で、自分はそっちのが好みだった。かな。というのは。ある。

 

いやでもスティーブン・ケープル・Jr.は立派に役割を果たしたよ。素晴らしい仕事だった。