静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画125: 『愛がなんだ』

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監督:今泉力哉

出演:岸井ゆきの成田凌深川麻衣若葉竜也江口のりこ 他

 

《一番言いたいこと》

この映画を観て、声を大にして言いたいことがある。

それは他人の関係性を否定するのはやめましょうということだ。

 

僕はこの主張を元々強く持っていた。

これは高校の時初めてできた彼女にフラれた経験から来ている。破局の引き金は当時の彼女が他人に僕らの関係性を相談したことによって引かれた。
相談すること自体は勿論良い。ただその相手とアンサーは僕の中に禍根を残した。
相談相手は僕と当時の彼女の共通の女友達だったんだけど、そいつはマジもんのアバズレだった。加えて顔もブスだったのが今でも腹立たしい。

 

相談内容は、僕が家に呼んだのに彼女に何もしなかったことで「自分に魅力がないのか」と不安だ、というもの(確か)。

確かに僕は付き合って2ヶ月ぐらいの時にデート帰りに彼女を家に上げて何もしなかった。
僕の言い分。当時高校1年生だった僕にはそういう発想が全くなかった。純粋に付き合って2ヶ月だしそんなのまだだろとか思ってた。純粋だったのよ。
今思えば流石に1アクションぐらい起こすべきだったと思わなくもないが、クソ童貞はそんなことに思い至るはずもなく。
アバズレはそれに対して、あいつはあなたに興味ないからさっさと別れるべき、とアドバイスをしたらしい。
その件以来、他人、特に恋人やその手前同士の関係性を否定することはしまいと固く誓った。苦目の経験がクソ童貞にもたらした些細な人生訓。

 

なので別荘のシーンのすみれさんには腹が立った。
確かに仲原くんの尽くし方は一般的ではないし、話だけだと葉子さんは悪い女に聞こえるかもしれない。
でもその裏にある複雑な想いを一蹴する想像力のなさは許し難いものがある。普通にデリカシーがない。

元々強く持ってたポリシーだったけど仲原くんへの同情がこの怒りをブーストさせていることは言うまでもない。

これを読んでる人は元々大丈夫だと思うけど、テアトル新宿を埋め尽くしていたキャピキャピ女たちにもこの願いが届くことを切に願う。女子大みたいになってたもん。

 

とても良いケーススタディだったのでこの場を借りて主張させてもらった。

今回はこの映画をダシにしてこれが言いたかっただけなんだ。

ついでにまとまらない感想も書きますね。

 

 

《山田さんの好きなところと理解不能なところ》
この映画は場所が変われば人は変わるということを描いていて、そこが好きだ。
意図的にやったことかどうかわからないけど、身に覚えがあってとてもリアルに感じた。
こないだ丁度映画友達と話したんだけど、どこにいてもよく言えばブレない、悪く言えば一本調子な人物描写に違和感を覚えることがある。
漫画とかアニメに多い。それはそれで良いんだけど、あんま人間っぽくは見えない。

 

山田さんは田中に対してそれこそ人間的でないレベルで敬虔で勤勉な反面、興味のない職場では他者など意に介さない怠惰っぷり。
初対面の人間が集まる場では壁の花な反面、田中と二人の時はニコニコで饒舌、仲原君との時は割と適当、葉子さんには甘え気味。
そういう意味で山田さんはとても人間的で好感がもてる。演じる岸井ゆきのさんは愛想の良いパグみたいで可愛い。

 

そんな山田さんの理解不能な点は田中への執着。
自分でも言っていたけど、最早愛とか恋とかそういう定型的な情念でない。尋常じゃない執着。
野暮を承知で敢えて言うなら信仰に近い。自分が信仰対象に近づこうとするという点では仏僧とかが近い気がする。

ファーストシーンは明らかに山田さんに肩入れさせる描き方をしていたし、田中が悪者に見える。
ただラストシーンはほのぼのした絵面のサイコホラーだったし、結果的には山田さんが登場人物で一番自分と距離のある人だと思った。

ただそこが嫌じゃないどころか、むしろとても興味深かった。

それはこの映画が単なるあの二人の恋愛物語でなく、もっと根っこの人と人との何かを描けているからなんだと思う。だから人物への共感は二の次三の次でいいというか。

(前にある「恋愛映画」を観たとき登場人物の誰一人として共感できなすぎてダメだったので余計そう思う。)

 

田中に惹かれる理由がほぼ描かれないのも面白い理由の一つだと思う。

ただそこを考える映画でもない気もする。そうだからそうでいいじゃんっていうか。
とにかく山田さんという巨大な謎がこの映画にすごい引力を発生させてる。

 

 

 

《20代後半の恋愛ー未知の世界 》
上述のクソ童貞は大学生の時ある子に出会った。すごく気も趣味も合う良い子だったので早めに告白したらたまたまOKだった。
そのまま今に至るけど、この映画を経た今ではシンプルだったんだなと感じる。良い悪い、合う合わないぐらいしか要素がなかった。
(ついでに言えばそんな時に出会えたのは超幸運だったんだと思う。)

 

だからこの映画で描かれる、そして実際にもあるらしい「20代後半の恋愛なんてなんとなく始まっていくもんだろう」という感じは今の自分によくわからない。てかまあ観ながら「こじれちゃってんなあ。」とすら思ってた。

でもやっぱりそれで切り捨てがたい魅力がある。

 

この映画は僕にとっては、人の人に対する執念とか依存とか憧れとか甘えとか寂しさとかそういうのが混然一体になってる力場が広がった未知の世界だった。
それは多分恋とか愛とかなんて一言で表せない、他人への想いのグラデーションなんだろう。

単純じゃないから美しい。複雑だから面白い。面倒くさいから愛おしい。

映画に描いてほしいのはこういうことだと改めて思う。

 

観終わった後そのままタピオカの列に並んでそうな女子にとっても、喉奥に残って取れない魚の骨みたいな映画であってほしい。

 

今泉監督の映画は初めて観たんだけど、こういうとところが持ち味だとしたらとても面白い監督だなと思う。

 

 最後に。

成田凌に「俺はどっちかって言うとかっこ悪い」と言わせるのはやめてくださいよ。
だったらせめてファッション誌の編集やっててオシャレって設定はなくすとかさ。自分が嫌になるだろ。お前は確かにかっこ悪いけど自分では言うなよ。

あと成田凌はファンサービスでも舞台挨拶で追いケチャップポーズをやるのはやめろ。やめろ。