静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画126: 『アメリカン・アニマルズ』

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監督:バート・レイトン

出演:エバン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン 他

 

何不自由ない生活をしていてせざるを得ないような何かはないし、何かをやりたい衝動もないけど、何者かである他人を見て自分もそうなりたくて仕方ないという欲求は特に昨今の若い人には珍しくないらしい。敢えて言うなら男子に多いのかもしれない。

 

例えば『クリード チャンプを継ぐ男』で富裕層の主人公はYouTubeを通して見る父親の背中を追いかけてボクシングをやるし、『スパイダーマン ホームカミング』ではヒーローとしての使命感よりも既に活躍している他のヒーローのようになりたいという欲求が先にあったのが特徴的だった。現代的なテーマなのかもしれない。

 

ついでを言えば自分もそうだった。大それた事や目に見える成果があることはしていないけど、映画を観始めたのも他の人より夢中になってるものが欲しいというのが先にあったし。思えば物心ついた時から本当に小さいところで他の人と違うことをしたい、こいつがやらないなら俺がやろうという理由で物事を選択するフシがあった。

 

この映画の主人公はケンタッキー州に住む普通の大学生。普通の大学生ということはつまり一定の生活水準を享受しているんだけど、ぼんやり、あくまでぼんやり今ここに自分がいる意味とかを自問してる。結果今の生活はつまらない、チンケな生活を維持するためにちまちま働く未来なんて嫌だと騒ぐ友人にほだされて1200万ドルの本を盗む計画を立て始める。

 

もし仮にこの映画を批判する人の中に「動機が弱くてノレない」という人がいたらそりゃそうだよとしか言いようがない。繰り返すと、彼らは何かひっ迫した衝動は持っていないけど何かをして何者かにはなりたい。ただし強盗をするモチベーションも覚悟は微塵もない。だから驚くぐらい何のきっかけもなくのぺーっと行動を始める。たまたま大学に高価な本が所蔵されているのを知ったからというだけで。

 

物事は実際にやる前の方が楽しいというのはよく聞く話だ。旅行、引越し、好きなゲームや映画の新作。計画を立てる彼らの物語の主人公は紛れもなく彼らだった。自分の机上の有能さや仲間が増える喜びに酔う無邪気さ。今サントラで「First Plans」という曲が流れてるんだけど、オーシャンズとかで流れてそうな洒落たジャズ調なのがマジで性格悪いなって思う。このスコアは図書館の図面を描き上げて二人で喜ぶところで流れてた笑

 

この課程でとても面白いと思ったのは、実際のメンバーの間で記憶に齟齬があること。例えば同じ場所にいた2人が見た男の外見の証言が異なっていたりする。人が自分の過去を脚色し、物語として補完しようとする部分が露わになる瞬間を暴くような作りがとてもスリリングだった。現在の4人のインタビュー映像が間に差し込まれる構成がめちゃくちゃ効いてると思う。それを映画的にサラッと描くのもスマート。ちなみに監督は昨今の「ベースドオントゥルーストーリーもの」へのアンチテーゼのつもりでやったらしい。

 

そんでいよいよ決行ということになるんだけど、ここまではほんの序の口に過ぎない。これから決行なんだから当たり前だろとかそういうことじゃない。ここまでは上にも連想する作品を挙げたけど、ここからがこの映画の唯一無二のところであり、僕が心底震えたところだ。ややネタバレというか核心に触れるので是非観てから読んで欲しい。

(予告ではここまでしか匂わせてないのはグッジョブだった。まあその方が人呼べるだろうけど。)

 

 

 

この映画の肝は時間の不可逆性にある。シーンで言うなら、映画みたいにスタンガンで気絶せず、痛さで泣き喚く司書を半泣きで縛り上げて半狂乱で鍵を探すシーン。もう絶対に後戻りできない、やってしまったという実感がビンビンに伝わってきてこっちまで青褪めた。彼らと同じくケイパーものの映画を観たことがある僕らの予想を悉く下回る用意周到でなさに目眩がする。スマートに計画を実行するイメージ映像が出た時にある程度予想はしていたけど、あれ程無茶苦茶だと本当に笑えない。もう本置いて逃げろとか客観的に突っ込むこともできないぐらいのめり込んで「マジでやべえ。終わった。」としか思えない地獄のようなシーンだった。

(エンドロール入ってようやく解放されたと思ったらラストに犯行のときの劇伴をぶち込んできて思い出せるのが本当に嫌。褒めてる。)

 

最悪は続く。辛うじてカバンに詰めた本を売り捌くくだりのケンカと言うにはあまりにおぞましい口論、精神的に追い詰められた彼らの行動、そしてあっけない逮捕。

 

なんと言ってもキツいのは犯行を語る現在の本人達の顔、顔、顔、顔。何であんなことしたんだろう、心底思い出したくねえと言わんばかりの伏し目。それまで軽口叩いてたウォーレンですら。それは司書という明確な被害者を出したからなんだけど、彼らは悪人じゃないから他人を傷つけたことにヘコむんだよね。と言うより他人を傷つけてまで何かをする覚悟はない人っていうか。

 

この監督はドキュメンタリーで名を挙げた人らしいんだけど、だからこそ事実に対する冷徹な視線が作品全体に行き渡っている。まあ明確な被害者がいるからってのもあるだろうけど、作品全体から若気の至りとして甘やかすような視点を徹底的に排除した作りにシビれた。本人にインタビューして、その映像を散りばめてこれをやるのは凄い。

 

僕は自分が理解できない思想を持った人でも、確固たる信念を持ってそれを実行する様を描く映画が好きだ(直近だとアベンジャーズのサノス)。でもこの映画は逆に信念や理想を何も持たずにぼんやりした欲求だけで一線を越えた、まさしくアニマルズを描いてた訳で。

 

自分はもうそういう「何者かになりたい」期は過ぎた(ウォーレンのなりたくなかった「労働者」になった)けど、根っこの気持ちは今でも全然わかる。叶える方法は最悪手だったけど。悪いことすんのって多分手っ取り早いんだよね。何かを成し遂げる近道みたいに見えるんだと思う。それが若さ故の想像力と実力のなさが引き起こした悲劇のきっかけだったという。愚かで悲惨だけど絶対他人事で切り捨てられない。僕はいつでも加害者になり得る。

 

まさかこんな方向から心を抉られるとは思ってなかったのでかなり嬉しい。サントラもめちゃめちゃ良い。今年ベスト級。