静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー010: 『ディーパンの闘い』 ※ネタバレ有

『ディーパンの闘い』
監督:ジャック・オディアール
出演:アントニーターサン・ジェスターサン


コーエン兄弟が審査委員長を務めたカンヌ国際映画祭で「パルムドール(=最高賞)」を獲得した本作。ちなみに『サウルの息子』はカンヌで「グランプリ(=審査員特別賞)」取ったって宣伝で推してました。この二つって違うんですね。

やってることは(珍しくもないんでしょうけど)「血縁のない者たちが家族になる話」で、最近僕が観た中だと『海街diary』とか(まあ重く捉えるなら)『パディントン』とか。加えて難民という社会問題も扱っています。

主人公はスリランカ国内の内戦において反政府軍に所属していた男ディーパン。妻と子を失い、戦争に嫌気が刺し、難民キャンプで出会った女と少女を偽装家族とし、フランスに難民として入国します。言ってみれば形から家族になるわけです。

共同生活を始め、学校や仕事など、それぞれの場所での生きるために闘う3人。今作の魅力は、その辛さを認め合った時から家族という最上の拠り所になっていくという関係性の変遷にあると思います。

それが顕著なのは主人公ディーパンと奥さんの間柄です。そもそも夫婦って元々は赤の他人なわけで、結婚という社会契約を結ぶことで家族として認められるものです。でも、なんかそういうの抜きにして、夫婦という家族になっていってるというのが描写の積み重ねから実感として伝わってくるんですよね。

でね、それがピークに達して爆発するのが夫婦としての初夜のシーンで、僕がこの映画で一番好きな部分です。なんかもうそのお互い「今がその時だ」と通じ合っている。シーンのラストカット。エロい。

それを境にもうピクニックなんか行っちゃったりして、幸せな家庭を形成していきます。奥さんは難民キャンプでの初登場からは想像もできないほど綺麗になっていき、表情も豊かになっていて「ああこの人は今幸せなんだな」と。

その幸せは銃声によって再び霧散してしまう。一度は諦めた男ディーパンが、内戦のトラウマを乗り越えて立ち上がるわけですけど、それをあくまでヒロイックにドラマティックに描かないかっこよさ。内戦という大局的な状況下で指示に従って殺すのでなく、2人の人間のために自分の意思で殺す。これを闘いと言わずしてなんと言うでしょう。男ですよ。侠ですよ。

ちなみに彼らが暮らしてるのってパリの郊外らしいですけど、いや、パリにもあんなところあるんですね…。まあ東京都も23区って3分の1ぐらいだしな…。

あとこのアントニーターザン・ジェスターサンさん、なんとなく『恋人たち』の篠原篤さんを彷彿とさせます。ずんぐりむっくりだけど眼がくっきりしてて。

なんだか書いてて観終わった直後より好きになっている自分に気付きました。カンヌだし小難しそうな感じもしますけど、思ってたより単純な話で僕は好きです。