新作映画064: 『ザ・コンサルタント』
監督:ギャビン・オコナー
出演:ベン・アフレック、アナ・ケンドリック、J・K・シモンズ、ジョン・バーンサル、ジョン・リスゴー 他
ナメてた会計士が殺人マシーンでしたモノ。しがない田舎の会計士のクリスチャン・ウルフには実は世界の危険人物の帳簿を仕切り、狙った獲物は外さない凄腕スナイパーという裏の顔があったのだッッッ……!!!
これだけ見るとなんかたまにあるやつ風ですけど。『イコライザー』とか、まあスパイダーマンとかスーパーマンとかもそうっちゃそうだし。しかし今作で特徴的なのは彼に「高機能自閉症」という設定が添加されているところかと。
わかりやすく1シーンを挙げるなら、幼少期から裏返しにしたジグゾーパズルを完成させられるほどの空間認識能力を持つが、一つのことを終わらせないとパニックを起こしてしまうので、ピースの一つが見当たらないことで同様の症状が起きてしまうシーンなど。ちなみに真っ白なパズルを作るっていうのはJAXAの宇宙飛行士の試験で実際にある。宇宙兄弟で読んだ。それだけスゴい能力を持っているのだ。
そんな彼がそのワザマエで悪代官をバスバス撃ち殺す痛快な映画なのかと思われがちな気がするし、僕もそんなイメージを持っていた。が、見ているとなんかおかしい。おかしいというかあまりに淡々としすぎているので逆にびっくりした。効果音で言うとモソモソしている。なんかモソモソモソモソしていた。
初めて実力を発揮するシーンもシチュエーションと描き方のせいでどこかぬべーっとしている。とにかくヒロイックに描こうとしていない。ただしかしウルフがやっていることはこれ以上ないぐらいヒロイックである。僕は「これ以上ないぐらいヒロイックなことをあまりヒロイックに描かない」というところにまず惚れた。
僕にはこのあまりに素直で飾らない描き方がウルフの朴訥で実直な人柄にも重なるようで、とても好みである。
そして何よりこの作品が素晴らしいと思うのは、「高機能自閉症」というレッテルを「確かな人物の個性と魅力」に転化しているところだ。「障がいがあるから応援したい」などという(どこかの国の感動ポルノよろしく)短絡的でクソな上から目線に立たせることなく、単に得意なことも多いが苦手なことも多い、尖った個性的な一個人として接することをさせてくれる。症状の総称としての名称は必要でも、それ以上でもそれ以下でもないということを気付かせてくれる。クリスチャン・ウルフという人物の裏表、過去と現在を描くことで、それらの全てが一つとなっているのが今の彼自身であるということを実感する。それがつまり人間を描けているということなのだと思う。
僕はこういうふわっとしたことしか書けないのですが、張り巡らされた伏線や人物関係などがいまいち把握し切れずネタバレ有の解説記事などを読むとなんとよくできたお話かと驚かされました。同時に自分の理解力の低さに泣いた。余談ですが『裏切りのサーカス』とか『マーシュランド』とか、説明的でない映画をきっちり脳内処理できるようになりたいです。
割とあらゆる面で素晴らしい作品。オススメ。
書いてたらもう一回観たくなってきた…。