静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー044: 『ラサへの歩き方 祈りの2400km』

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監督・脚本: チャン・ヤン

撮影:グオ・ダーミン

出演:チベット現地の人たち

 

 

ご無沙汰です。この度、渋谷はシアターイメージフォーラムにて一部(主に僕モテメルマガ界隈)で話題沸騰の本作を観てきました。チベットのプラ村の老若男女11人が聖地ラサへの1200km、その向こうのカイラス山への1200kmを、仏教において最も丁寧な礼拝方法である五体投地で進みながら巡礼していくというフィクション映画です。ドキュメンタリーではなく。

 

五体投地というのはまあ一言で言うとスライディング土下座です。数歩歩いている間に3回手を鳴らして合唱、木や革で作った道具で保護した両手両足を地面に勢いよくズザーッとつけ、最後に頭を接地しその状態で静止したまま拝み、また立ち上がり…というのが流れで、これを繰り返して2400km進むわけです。googlemapで調べてみたら、北海道の札幌駅から九州の鹿児島空港までが2478kmだったのでほぼ日本縦断の距離ですね。

 

 かくいう僕も勿論五体投地なんて言葉すら知らなかったので、映画館で初めて五体投地を目にした時は驚きでちょっと笑ってしまいました。思いのほか勢い良く滑り込んでくるんですよ。人が。画面の外から。ちょっと今までに観たことないアクションだなと思って。そして、村人たちの生活をじっくり観察する冒頭30分以降はかなりの割合で五体投地シーンが続くわけですが、見ていて飽きない。

 

キャストの演技のリアリティーも高く、それは現地の人なんだからまあ当たり前っちゃ当たり前なんですけど、それだけでは説明のつかない馴染み方があったような気もします。

 

以前『百円の恋』を見たときにボクシングのトレーナー役の松浦慎一郎さんがすごく良いなあと思ったことがあったんですが、あとで調べてみたら実際にトレーナーの資格を持っている方だったということがありました。逆に(2話ぐらいしか見たことないんですが)ドラマ「孤独のグルメ」で主人公が食事するお店の店員が役者の人っていうのがあまりにナチュラルで驚いたりしたこともありました。演技のリアリティって難しいし面白いなあと思う次第です。

 

僕が好きな五体投地シーンは、一行の男性陣がとある理由で普通の徒歩での移動を余儀なくされた時、徒歩を始めた地点まで歩いて戻ってまたその分の五体投地を再開するシーンであります。「さすがに歩くよね」とタカをくくっていたので、不意を突かれて感動してしまった。あと五体投地するには良くないコンディションの地面を目の前にした時の「これやる?笑」「やるでしょ笑」「やるか…笑」みたいな無言のやり取りがあったように見える彼らの表情もとても生き生きしてました。

 

彼らの表情が生きていることは、この映画が宗教という彼らの絶対善(という言い方が良いのかどうかわかりませんけど)を理想に近い形で行っているからなのかもしれません。特に村からラサまでの1200kmの道のりは、公式サイトのプロダクションノートを読むと本当にやっているようですからね。無宗教な僕らには日常の中にそういう絶対的な善というものはなかなかありませんし、まあ本当に嬉しいのかもね。

 

仏教が善かどうかは置いといて、とりあえずそれを自分たちの中で善的なものとして設定しておいて幸せを感じるなら(誰に迷惑かけるわけでもないし)良いよねぐらいのスタンスなのかもしれません。そんなことすら考えてなくて、とりあえずあるものを享受しているだけなのかも…。「かも」を多用しすぎですね笑

 

いずれにしても、あんな苦行にしか見えないことを延々やってる人たちの表情が生きていることが印象的な作品でした。