静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー045: 『ケンとカズ』

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 『ケンとカズ』

監督、脚本、編集:小路紘史

撮影:山本周平

出演:カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節、高野春樹、江原大介、杉山拓也、岡慶悟 他

 

 

友人のけんす。さんや僕モテメルマガのプッシュで観てきた。後者ではとにかく役者の「顔」が良いという推され方をしていたけど、全くそう思う。今ゴッドファーザーを観てるんだけど、良い勝負してるんじゃないかなぐらいに。なんか良い意味で脂ぎってるんだよ。ちょっと汗でテカってる感じにすごく息遣いが伝わってくるような臨場感や実在感があった。これはもう画像検索してスチールを観れば伝わるレベル。

 

男どもがそういう存在感を放ってるのに対して、女性陣は絶妙なすっぴん感というか。あくまで男たちの話であり、女性たちは話を転がすための関係として配置されてるから、そこは肌や顔で主張して来ない。2人女性が出てくるんだけど、2人とも薄顔なんだよな。意図的なキャスティングなんだろうか。

 

終映後は23時にも関わらず、監督と主要キャストの4人が舞台挨拶に来て質疑の時間を設けてくれていた。

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その時監督は本作を撮るにあたって韓国ノワールに影響を受けたと仰っていた。僕が韓国映画に対して感じる良さは、登場人物を物語やバイオレンスを駆使して、物理的に精神的にいじめ抜くところにある。作品の底に流れるSっ気にニヤニヤしてしまうことが多いのである。本作でもそういうところにぬかりはなく、甘さがない。

 

それに対して日本映画の魅力の一つとして「八方塞がり感」というものがあると僕は思う。直前の危機というよりはやんわり「ああ、もうダメかも。厳しい。」という諦念を抱かせるような重たい手触りというか。小規模な日本映画において郊外や地方の閉塞感とセットで描かれることが多いような気がする。

 

この『ケンとカズ』はその2つの良いとこ取りというか、ハイブリッドのような映画なのかなあと思っている。目前に差し迫った危機と、やんわり遠方にゆらめくような漠然とした不安のようなものが画面に同居しているというイメージというか。ラーメンで例えると豚骨と魚貝のダブルスープですね(下手)。

 

とっても好きなのがケンとカズが夜の街で覚せい剤を売りさばくシーンで、あそこは編集のスピーディーさに目を開かされた。ニヤつくほどの小気味好さがある。あと冒頭のケンがカズのケツを後ろから蹴って無言でパチンコに行くシーンですよ!長年一緒にいる2人のノンバーバルなやりとりから言い知れぬ関係性が伝わってきて、冒頭にこういう気の利いたカットが入るのと入らないのではその後の感じが全く違ってくるだろうなと思いましたねえ。

 

東京では、渋谷ユーロスペースでは終わってしてしまったようですが、10/8から下北沢トリウッドで上映するみたいです。本作を観ずして邦画当たり年を語るなかれと言いたくなる。オススメです。