静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー056: 『この世界の片隅に』

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監督:片淵須直

原作:こうの史代

音楽:コトリンゴ

出演(声):のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞小野大輔潘めぐみ岩井七世 、 澁谷天外 他

 

 

僕が『シン・ゴジラ』を見て「これは!!!」と思ったカットで、首相官邸の前でシュプレヒコールが鳴り響く中仕事を続ける巨災対メンバー、の後ろで掃除のおばちゃんがカップ麺の容器やらがパンパンに詰まったゴミ袋を片付けるカットというのがありました。巨大不明生物が現れても、人は食べるし、ゴミは出ます。ゴミを捨てる人もいるし、その人もまた巨大不明生物が出現したその世界に生きている。考えれば当たり前のことですが、そういうディティールを描くことがその作品の世界を豊かにすると思うわけです。これで僕が作り手の人だったらかっこいいですね。

 

この映画はその掃除のおばちゃんたちを主人公に据えた戦時中のお話です。毎日洗濯して料理して畑仕事して…。戦争映画だったら画面の端にチラチラ映るかどうかってレベルの人たち。そんな話なのにどうしようもなく豊かで面白い。生活の中にあるアクションや達成感、種々の感情をつぶさに捉え、その喜びを僕らに疑似体験させてくれる。何をするにも手間がかかり、基本的に何かが不足している時代。生活レベルの困難を身体と頭を使って乗り越えることで発生する喜びが自分のことのように嬉しくなってしまう。僕は老人たちが「昔はモノはなかったが心は豊かだった」とかそういうこと言うのがめっちゃ嫌いですけど、この漫画を読むと自発的にそういう風に思える。人に言われて受けれいたくないことでも、言葉でなく体験できれば本心からそう思えるというのはフィクションの力かもしれません。そんな漫画です。すごい漫画です。

 

シン・ゴジラ』におけるゴジラはこの作品における戦争です。もっと言うならそれは空からやって来る。しかもゴジラと違って見えにくいのでいきなりきます。個人的にアニメ化の恩恵を一番感じたところです。怖いんだよ空爆が。それを映画館の音響でフィジカルで体験できるのが最高。家のテレビで観るのとは感じ方が全然違うと思う。アニメという意味では、割にゆっくりな動作が多い日常パートと、物凄い速さで落ちてくる焼夷弾(?)の対比も非日常感がとても出てた。アニメ映画化した意味がしっかりある。

 

だからよく見る終戦の玉音放送の瞬間も悔しさが伝わってくる。質素倹約という形で協力して、種々の犠牲も払ったのに負け。戦争に賛成とか反対とか(そもそも状況に巻き込まれてるだだし日々の生活に精一杯なのでそういう話が一切出てこないのもいい)関係なくそこは理屈抜きで悔しいんだろうなと。

 

あとグッときたのは戦争が終わっても明日も明後日は来るってところ。当たり前なんだけど。そんなことで感動しちゃえるんですね。

 

すずさん(と妹)はかわいい。幼少期から同じ声なのはちょっとあれだけど。ツレは周作さんがかわいいって騒いでた。