静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画レビュー059: 『ドント・ブリーズ』

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監督:フェデ・アルバレス

出演:ジェーン・レビ、ディラン・ミネット、ダニエル・ゾバット、スティーブン・ラング 他

製作:サム・ライミ

 

 

評判を聞いてあらすじだけ読んでいきました。もうこれが一番言いたいことなんですけど、予想を遥かに超えて面白かったですよ。単純な面白さだけなら今年ベスト級です。僕はホラー映画が得意じゃないしところどころ半目で観てたんですけど、観終わったあとは面白さがすべてを上塗りしていて興奮が収まりませんでした。あれだけ限定された空間(2階と地下の一軒家)で盲目の老人と盗人3人がすったもんだするだけでこんなにエキサイティングなんですか?映画ってすごいね。観る前は「お、88分!丁度いいね~」と思ってたのですが「え、(良い意味で)188分と見間違えたのかな」と本当に思いました。濃かった。特濃。年末にこういうのがぶっこまれてくるからたまりません。たまんねえ!!!!

 

僕の中で「面白い映画」って得てしてその場限りのものになりがちで、観て2ヶ月もすると何も覚えてないみたいなことがザラなんですけど、この映画はそうはならなさそうです。ただのホラー映画にとどまらないものがあるというか。なぜかっていうとこの作品はホラー映画言えど、純粋な人間対人間の構図であるから。もっと言えば被害者対加害者の関係性が描かれているからだと思います。その一筋縄ではいかない割り切れなさがビターな後味として残っている。

 

個人的にはあるものを通して盲目の老人が「侵入者が3人いる」ということに気づいた時、少し怯えたような表情をした瞬間が白眉でした。この時僕は13日の金曜日におけるジェイソンだと思っていたこの老人が単なる一般人かつ一方的な被害者であることを思い出してハッとしたのです。ましてイラク戦争に従軍した結果視力を失ってその後あんなことがあったのでは全くこの人のことを怖がったり、することを非難したりなどできません。盗人死すべし!!

 

気持ちとしてはそんな感じだったのですが、それだけに止まらないのがドント・ブリーズ。おじいさんが我々の同情心を振り切るクレイジーさを発揮して話をドライブさせていくところが最高でした。かと言ってヒロインを応援するとおじいさんの口の中にあれぶっ込んだりするしもう俺どうしたらよかったんだよ。

 

勿論ヒロイン側も強盗に走るだけの動機はあったし、家主が盲目とわかれば躊躇もする人間的なところはあるわけなんですけど、だからこそ向こうも人間だからどっちが勝っても後味悪いよお。全部社会が悪い!

 

というのは冗談としても、社会問題の被害者二人が富の奪い合いをしてるっていうその様自体がホラーになってるって風刺的なところもあるんだろうかね。それもまたやだ!!でも最高に面白いのもまたまたやだなー!!!最高!!最高に最悪なのが最高!!

 

新作映画レビュー058: 『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』

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監督:ギャレス・エドワーズ

出演:フェリシティ・ジョーンズディエゴ・ルナ、アラン・テュディック、ドニー・イェンチアン・ウェンベン・メンデルソーン、リズ・アーメット、マッツ・ミケルセン、ジミー・スミッツ、フォレスト・ウィテカー

 

内容に触れてるので未見の方は読まないほうがいい!!

 

実は15日の25時の回で観ていたんですが、28日に二回目を観るまで放置しておりました。まあ1回目がほぼ最速上映に行った挙句延々うとうとしていたという失態を犯したからというのが大半の理由なのですが。いやでも僕だけが悪いわけじゃないと思っている。理由は後述。実際クライマックスのスカリフの戦いまでは2回目でもだるかった。まして1回目はスカリフですらだるくて、ラストの10分でやっと起きた。

 

この映画の良いと思えたところはEP4のモノを使った画面がかっこいいという点に尽きる。ファンの皆さんが俺たちの見たかったスターウォーズと言いたくなるのもとってもわかる。煙から出てくるAT-ATみたいなやつ、地平線に浮かぶデススター、そして何よりベイダー卿無双。あまりのかっこよさに震え上がった『GODZILLA』のゴジラ初登場のシークエンスが抱かせた期待を裏切らない出来だったと思う。ここは大いに評価したい。というかこれら見たさというのが2回目に行った理由の半分。

 

じゃあもう半分はと言われると、分からないことが多かったから、だ。冒頭からかなり早いテンポで会話が続く上に知らない人の名前がポンポン出てきて面食らった。その中で「何のために何処へ行く」「この人はこういう人」という情報ももたらされるので僕の頭はパンクしていた。2回目にもなると「あ、ここでちゃんとセリフが入ってたんだな」「この人はこういう人なんだな」など納得するところも多かったけど1回目は正直辛かった。僕の場合わからないことがあるとほっとかずに考えながら観てしまうので目の前のシーンに集中できないことが多い。ちなみにMIローグネイションとかもそんな感じだった。

 

加えて単純にキャラクターに魅力を感じなかったのも辛かった。ここは2回観ても特に変わらなかった。皆さん揃って帝国と戦う動機が弱い(あるいは伝わってきてない)と思った。特にジンはソウに「帝国の旗が立つのを黙って見ているのか」とか言われて説得された風だったけど、こちらにはジンとソウの関係性がいまいちわかってないので全然納得できなかった。内心そういう正義感はあったけど捨てられてやさぐれてただけだったのかな。せめてソウとの別れのシーンは台詞だけで処理せず描くべきだったんじゃないのかと思ってしまった。ソウが「俺を殺しにきたんだろ」などといきなりヒスってるのもよくわからなかった。そういう訳わからなさを残したままソウは死んで話が進んでいくからいまいちノレなかったんだと思う。ソウの何だったんだ感はいまでも拭えてない。

 

だから各々のメンバーがジンを信用してチームローグ・ワンになっていく過程もなんかアガらない。というか過程があまりない。なし崩し的にともに行動しているだけで、命懸けで使命を果たすはぐれものチームにはあまり見えなかった。2時間半で旧作ファンサービスやりながら新しいキャラを出して紹介して仲良くさせて殺すのは大変なんだと思うけどもう少しどうにかならなかったのか。あ、でもK2SOは大好き。取り残される無能ドロイドコンビは彼を見習え。というか有能すぎてなんであの型のドロイドがのちのシリーズにいなかったんだとすら思う。高級なのかな。

 

敢えて言うなら僕がここで語った不満点はフォースの覚醒が完璧に達成したことでもあると思う。比べるものでもないかもしれないけど、コンセプトとしても僕は断然エピソード7を支持したい。

 

あとドニー・イェンが最期にアップになるシーンで杖に仕込んでたライトセーバーを発動させて、そのままなんやかんやでベイダーと戦って死ねば(例え瞬殺でも)それだけで100億点だったんだけどなあ。そこも超残念。やれよ!!!

新作映画レビュー057: 『仮面ライダー 平成ジェネレーションズ』

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  『仮面ライダー 平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー

監督:坂本浩一

出演:飯島寛騎、西銘駿、瀬戸利樹、山本涼介、松本京恭、磯村勇斗、松田るか、大沢ひかる、柳喬之、小野塚勇人、甲斐翔真、工藤美桜、白石隼也竹内涼真棚橋弘至、鈴之助、山本千尋高野洸博多華丸野村宏伸佐野史郎

 

 

タイトルが長え。

 

今年もこの時期がやってきた。去年の冬映画は惨憺たる結果だった。鶴太郎と竹中直人のアドリブ合戦は超笑ったけど…もう悲惨だった。あれが制作過程に事故がなかった結果だったのなら逆にすごい。

 

基本的に冬映画(MOVIE大戦シリーズ)はテレビ放送中の現行ライダーのスペシャルストーリーと、10月で放送が終わった先輩ライダーのアフターストーリー、そしてその二つの話が合流して二大ライダーが共闘するMOVIE大戦パートの三部構成が例年のパターンだった。去年から最初から最後まで二つのライダーが共闘する構成に変えてきて、今年はそこに更に3人の先輩ライダーが参戦する形になった。

 

まず良かったのは現行のエグゼイドと先輩のゴーストの話がベースとしてしっかり成立していたこと。エグゼイドは研修医、ゴーストは一度死んで蘇った高校生というそれぞれの立場がやりとりを通して相互作用的に引き立っていた。特に永夢には身の回りに後輩のような立ち位置のキャラも完全に信頼できる対等な力を持った味方もいないから、タケルとの関係性は新鮮だった。というか単純にエグゼイド本編がギスりすぎているので安心感があった。信頼できる仲間っていいね(小並感)。ラストのひと悶着からのやりとりは唐突すぎるけど蛇足ではなくとてもグッときたよ。

 

そしてその土台の話に先輩ライダーたちもきっちり絡んでくる仮面ライダーには春映画というのがあって(『仮面ライダー1号』の記事参照)、そっちは例年話がめちゃくちゃなところに最終決戦で先輩方が大挙して押し寄せてくるので何の感慨もないんだけど、今回はラストの5大ライダーの横並びにカタルシスを感じられた。

 

特に仮面ライダードライブ、泊進ノ介は三人目の主役と言っていいレベル。後輩たちの危機的状況に変身して助太刀できないもどかしさを抱えながらも刑事として、そしてベルトはなくても仮面ライダードライブとして敵に立ち向かう姿は感慨に堪えないものがあった。しかも一つ下の後輩のタケルがその信念を受け継いでいて、後輩(年上の医者)に説教する場面まであっておお、もう…。タケル殿がああやって感情をむき出しにするのって意外と珍しい気がした。高校生のくせに最初っから利他的な人格者だったからな。でも怒るのも他人のためってのも彼らしい。あのシーン好きだなー。生身アクションが大好きな坂本監督の心の声にも聞こえたよ。久しぶりに登場した仮面ライダーウィザード、操真晴人も相変わらずで安心した。本当に今何やってるんだよって思うけど、たぶんプラプラしてたらたまたま今回の件に関わっちゃったんだな。

 

アクションシーンは今までの坂本監督作品以上のてんこ盛りで目がどっと疲れた。ただサービス精神からくるフォームチェンジラッシュが勝つ手段でなく目的化しちゃってる気もするし、シーンが変わるともう姿も変わってたりしてそこはちょっと、まあキツく言うなら雑かなとも思う。一回の変身の演出にこだわりまくる柴崎貴行監督ほど大事にやれとは言いませんけどね。とは言え出してくれること自体は本当嬉しい。オールドラゴンとかタイプフォーミュラとか大好きなので。

 

呼べば絶対出てくれそうな佐野岳がいなかったのはマジで残念だったけど、総じて大満足です!!

 

 

 

 

来年の春映画はあれが帰って来るみたいで楽しみだなあ!!!!

 

 

新作映画レビュー056: 『この世界の片隅に』

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監督:片淵須直

原作:こうの史代

音楽:コトリンゴ

出演(声):のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞小野大輔潘めぐみ岩井七世 、 澁谷天外 他

 

 

僕が『シン・ゴジラ』を見て「これは!!!」と思ったカットで、首相官邸の前でシュプレヒコールが鳴り響く中仕事を続ける巨災対メンバー、の後ろで掃除のおばちゃんがカップ麺の容器やらがパンパンに詰まったゴミ袋を片付けるカットというのがありました。巨大不明生物が現れても、人は食べるし、ゴミは出ます。ゴミを捨てる人もいるし、その人もまた巨大不明生物が出現したその世界に生きている。考えれば当たり前のことですが、そういうディティールを描くことがその作品の世界を豊かにすると思うわけです。これで僕が作り手の人だったらかっこいいですね。

 

この映画はその掃除のおばちゃんたちを主人公に据えた戦時中のお話です。毎日洗濯して料理して畑仕事して…。戦争映画だったら画面の端にチラチラ映るかどうかってレベルの人たち。そんな話なのにどうしようもなく豊かで面白い。生活の中にあるアクションや達成感、種々の感情をつぶさに捉え、その喜びを僕らに疑似体験させてくれる。何をするにも手間がかかり、基本的に何かが不足している時代。生活レベルの困難を身体と頭を使って乗り越えることで発生する喜びが自分のことのように嬉しくなってしまう。僕は老人たちが「昔はモノはなかったが心は豊かだった」とかそういうこと言うのがめっちゃ嫌いですけど、この漫画を読むと自発的にそういう風に思える。人に言われて受けれいたくないことでも、言葉でなく体験できれば本心からそう思えるというのはフィクションの力かもしれません。そんな漫画です。すごい漫画です。

 

シン・ゴジラ』におけるゴジラはこの作品における戦争です。もっと言うならそれは空からやって来る。しかもゴジラと違って見えにくいのでいきなりきます。個人的にアニメ化の恩恵を一番感じたところです。怖いんだよ空爆が。それを映画館の音響でフィジカルで体験できるのが最高。家のテレビで観るのとは感じ方が全然違うと思う。アニメという意味では、割にゆっくりな動作が多い日常パートと、物凄い速さで落ちてくる焼夷弾(?)の対比も非日常感がとても出てた。アニメ映画化した意味がしっかりある。

 

だからよく見る終戦の玉音放送の瞬間も悔しさが伝わってくる。質素倹約という形で協力して、種々の犠牲も払ったのに負け。戦争に賛成とか反対とか(そもそも状況に巻き込まれてるだだし日々の生活に精一杯なのでそういう話が一切出てこないのもいい)関係なくそこは理屈抜きで悔しいんだろうなと。

 

あとグッときたのは戦争が終わっても明日も明後日は来るってところ。当たり前なんだけど。そんなことで感動しちゃえるんですね。

 

すずさん(と妹)はかわいい。幼少期から同じ声なのはちょっとあれだけど。ツレは周作さんがかわいいって騒いでた。

 

 

 

新作映画レビュー055: 『アズミ・ハルコは行方不明』  と『私たちのハァハァ』

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監督:松居大悟

出演:蒼井優高畑充希、太賀、葉山奨之、石崎ヒューイ、山田真歩、菊池亜希子、芹那加瀬亮

 

少し内容に触れます!

 

とってもお久しぶりです。約1ヶ月ぶりの投稿となってしまいました。投稿をサボってたというか映画館自体行けてなかった半分行かなかった半分で。気付けばもう年の瀬ですね。へえ。

 

松居大悟監督(弱冠30歳)の前作『私たちのハァハァ』は去年の僕のベストムービーでした。つまり生涯ベスト級。勿論前から期待はしていたわけです。

 

『私たちのハァハァ』が「女子高生たちが地元という現実の外に出て壁にぶち当たる話」と、言わばまっとうな青春映画だったのに対して、今作で描かれたのは「地元という現実から逃れられない人たちが真綿で首を絞められるように環境に追い詰められていく話」でした。真逆なわけですね。途中までは。結局アズミ・ハルコは行方不明になったのではなくそこから逃避していたわけで、逃避してからでなく逃避するまでの話という点でも『私たちのハァハァ』とは逆のアプローチで女性を描いている。

 

思えば松居監督のさらに前作の『ワンダフルワールドエンド』も最終的に女の子二人で逃避してるのかしてないのかという微妙なラインで落としていました。あれも相当フィクショナルな演出をしてましたけど。「女と逃避」は最近の氏のテーマなのかもしれません。

 

 逃避と言うとネガティブイメージなワードですが、それをポジティブに描いている点もまた一貫しています。「消えちゃえば?」と軽いノリでね。僕は松居監督のそういうところが好きだなと改めて思いました。逃げずに壊れるぐらいなら逃げた方がいいですよ。僕自身この国で生きていて逃げることに不寛容な空気を感じているからハマるメッセージなのかもしれません。

 

本作に関してはこの逃避のディテールを描かないところや女子高生ギャングの非現実的な演出、時制をシャッフルしているのは賛否分かれるだろうなと。トークショーにきた池松壮亮が「よくわからなかった」とコメントしていたのは笑いました。仲いいからなんだろうけど。僕も観てる時は少し戸惑いました。

www.cinema-life.net

 

時制のシャッフルに関しては僕は嬉しかった。嬉しかったというのも、個人的に「地方の閉塞感」ってちょっと食傷気味なので普通に見せられても辛かっただろうからです。ただ、執拗に繰り返される車での移動シーンとか、どこにいても同級生ネットワークが張り巡らされてて名前で呼ばれちゃう感じとか、痴呆老人に追いつめられる主婦とか、成人式の派手な格好とか地方演出もとても上手だと思いましたけどね。原人並みのジェンダー観なおじさんたちはちょっとやりすぎかなと思ったけど笑

 

そういう意味ではJKギャングもスパイスとしてアリだなあと。「徒党を組んで逃げずに戦う若い女性(ティーン)」という意味で晴子とは逆の方を選んだ結果と解釈しました。映画的に映える形の演出としてアクション(暴力)するギャングという設定が添加されたのかもしれませんね。

 

あとやっぱり現代を生きる若い女性の演出をさせたら右に出る人はいないんじゃないかってぐらい皆素晴らしかった。特に高畑充希は『怒り』に続いてやられたなー。もう大好きですもん。ピロートークのウザさ最高。

 

「若い女性を取り巻くキツい状況を甘やかしなしに描き、最後はこれ以上ないぐらい優しく落とす」という意味ではやっぱり『私たちのハァハァ』と同じラインだと思います。ハァハァは上げて上げて思いっきり落として最後にちょっとだけ上げるって塩梅が最高だったのでその点では及ばないかなーやっぱり。ただ併せて観ると通じる部分と逆の部分が見えて面白いかも。というわけで『私たちのハァハァ』もお勧めです!!!

新作映画レビュー054: 『デスノート Light up the NEW world』

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監督:佐藤信

原作:大場つぐみ小畑健

出演:東出昌大池松壮亮菅田将暉戸田恵梨香川栄李奈藤井美菜船越英一郎中村獅童沢城みゆき松坂桃李松山ケンイチ藤原竜也 他

 

※少しだけ内容に触れてます

 

『淵に立つ』も『ダゲレオタイプの女』も『ぼくのおじさん』も『溺れるナイフ』も観れてないのにわざわざこの映画をチョイスしたのは菅田・池松見たさ以外の何者でもございません。

 

僕の場合映画の前2作は遥か彼方の記憶であまり憶えてないし、原作も未読。勿論ノートのルールもほとんど把握できてない状態だったので、ほどほどに頭は働かせながら観なきゃいけない。でも突っ込みどころが逐一気になる作劇で、ディティールを考えるのもアホらしくなってくる。「調理に手間がかかる上に歯と歯の間にめっちゃ挟まって食べづらいのにそんなに美味しくない料理」みたいな映画でした。例えが上手くなりたい。

 

お話は終始そんな感じだったのですが、池松壮亮が演じた竜崎は割に好きなキャラであります。本人のバックボーンは殆ど描かれないんですが、Lから継いだ意思を完遂させるという目的意識が行動や言動から一番感じられたからかな。キャラとしての落としどころもニクい。そんなことされたら好きになっちゃうだろと。実においしい。実質的に竜崎が主役だったと思ってます。出番も多かったので映画全体の印象が悪くないし、この映画の良心と言っていい。まあ言いたいことはあるけど。池松壮亮はフィクショナルな役も行けるんだなと幅の広さを感じた。

 

逆に菅田将暉演じる紫苑と東出昌大の三島が割を食っているというか。

 

三島くんはデスノート対策本部のエースと言われてる割にそういうことを感じさせるシーンがほぼないのが辛い。その上なぜデスノートを追うかの動機付けが同じ立場の竜崎と比べて著しく弱い。2人の天才に翻弄される受身の役であるにしても、それはキャラの弱さとは別問題だと思う。かと言って2人の引き立て役になってるわけでもないし。「じゃあ何してんだよ」と言われると僕も困る。東出昌大はやっぱ桐島やクリーピーみたいな役がいいよ、うん。

 

紫苑はサイバーテロリストとして笑っちゃうぐらい万能で、ノートの使い方でもっと天才ぶりを見せてくれよと思わずにいられない。これはデスノートの映画だからと小一時間問い詰めたくなった。超映画批評の人が「デスノートの強みはステルス性にある」と言ってたけどまあその通りだし、劇中の人物にすらそこを突っ込まれてたのでノートの扱いの下手さに関してはある程度確信犯だったのかもしれない。菅田将暉はもう安定感しかない。個人的には少し仮面ライダーWのフィリップくんを彷彿させる台詞があって嬉しかった。

 

紫苑はノートの使い方が下手、竜崎は予告でも言ってる通りLの意思を継いでノートは使わない、当然対策本部の三島も使わない。ノートを使った一方的な大量殺戮を行って悪目立ちした結果、主要人物にノートを狩られるという、まあ噛ませ犬的な立ち位置のやつらはいるんだけど、勿論知的とは程遠い。又はノートを奪取される過程のシーンをすっ飛ばされるキャラ等…(ちなみにここは小説版で補完されてるらしい)

 

結果として皆さんが仰ってる通り、「劇中で」「デスノートを使って」「頭脳戦」をする奴がいない。原作と映画前作の魅力はここじゃないんですか。魅力と言うか前提としてそういう話だろうし、観に来る人は大体思ってるはず。ここを削いでどうすんだよ。この映画のダメなところはここに尽きるでしょう。

 

だから、言ったらこの映画におけるデスノートは極端に言うとドラゴンボールみたいなものになっちゃってる。集める対象として偶像化されているというか。加えてノートが6冊あるのに早いうちに結局敵側と味方側に集まっちゃう。だから構図としては1vs1になってて、6冊ルールを活かせてる訳でもない。前述した通りノートを持った噛ませ犬が出て来るだけだから。シブタクがデスノート持ってるようなもんですよ。6冊ルールこそ連ドラでじっくり計算してやったら面白くなりそうだったのになー。勿体無い。

 

不満を上げ連ねる方が筆が進むし、文としても何か理屈が通ってる風なのが悲しい。そもそも映画という非言語的なメディアから受け取った、言葉にし難い感慨を具体化して共有したくてこういうブログを書いている訳で、簡単に文章にできたら僕にとってはよくないのである。やっぱそういう意味でも今年僕が観た映画達は質が高かったんだなと思う。前回の『永い言い訳』とかこの半分の文字数で10倍ぐらい時間かかったもの。

 

最後にこの映画を観ていて僕の頭に去来した小津安二郎の名言を貼ってシメたい。

「映画はドラマだ。アクシデントではない。」

新作映画レビュー053: 『永い言い訳』

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監督・脚本・原作:西川美和

出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、池松壮亮山田真歩堀内敬子黒木華深津絵里

 

少し内容に触れているので観てない方は読まないことをお勧めします。

 

 

予告を見た時は①「シリアスで重たい話」、②「愛してない妻を失った夫が、その不在から想いを改める話」という印象を受けた。僕の場合(恥ずかしい話ですが)西川監督の作品も結局観ずじまいできてしまってたので、余計にそんな型通りの話が展開されるんじゃないかと疑っていた。まず全く違ったことを勝手にお詫びすると共に以下で弁明させて頂きます。

 

まず①だけど、現時点で映画館で観た53本作品の中でもかなり笑った方だった。特に竹原ピストルの強面をフル活用した緩急で笑わせる芸(?)は本当にうまいと思った。「笑い=緊張と緩和」ってこういうことなんだなあと感心した。そして見た目ばかりカッコ付けの自意識オバケの幸夫くんをここまで愛すべきキャラにしてるのはもっくん力なんだろうと思う。天国の妻二人も残された旦那二人のジタバタをケラケラ笑いながら見ているのではないでしょうかね。1番笑ったのは、妻の死を知った疎遠だったと思われる知り合いからの宗教勧誘の電話をバックに荒れ放題の幸夫くんの部屋が映されるところ。字面にすると全然笑えないけどね。

 

 ②。多分幸夫くんの妻への想いはラストまで変わらなかったと思う。しかし妻の死に何も感じない自分に嫌悪感は少なからず感じている。同じ境遇にも関わらず喪失感で滅茶苦茶になっている男が傍にいるから余計だろう。その「免罪符」としての子育て。しかも同じ境遇とは言え赤の他人の子どもの。その結果何が変わったかって自意識だと思うし、まあ、「人生は他者だ」の一言に集約される。

 

いや、要約すると本当面白くないですね。映画ってすごいね。他者を通じて自意識が変化するっていう点ではやっぱ『何者』とちょっと似てるなあと。こっちはアダルト版だけどね。劇場の年齢層はとても高かった。

 

関係ない極私的論だけど、人間は社会的な契約を結んで結婚相手という専属の他者を作り、その次に共通の他者としての子どもを儲けて…っていうのを繰り返してきてるんでしょうね。普通は他人の子どもにここまで入れ込むシチュエーションにならないでしょうからね。

 

ちなみに僕のベストシーンは竹原ピストルがトラックの車内で一人でカップ麺食べながら妻の留守電聞いてるところです。書いてて僕は孤食(飲)シーンが好きなのかもしれないと思いました。『恋人たち』のカレートースト、『オーバーフェンス』の唐揚げ弁当、『フォックスキャッチャー』の車内ハンバーガー&部屋での袋麺(?)、『秋刀魚の味』のバーでウイスキー→家で水、『グラントリノ』のビール、『海よりもまだ深く』の立ち食いそばなど。食事や飲酒と言えば食卓や会話が想起されるからなんでしょうかね。