静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画099: 『新感染 ファイナル・エクスプレス』

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監督:ヨン・サンホ

出演:コン・ユ、キム・スアン、チョン・ユミ、マ・ドンソク、チェ・ウシク、アン・ソヒ、キム・ウィソン 他

 

しつこいぐらい言うけど韓国映画の最高なところは登場人物をいじめていじめていじめ抜くところにある。少なくとも韓国ドS映画史みたいなラインはあると思っている。物語も演出もとにかくサド。悲惨。『オールド・ボーイ』『最後まで行く』『息もできない』『シークレット・サンシャイン』『オアシス』などなど。この並びに新たな傑作が加わった。

 

その名は『新感染 ファイナル・エクスプレス』。うーん、ダジャレ。しかもKTXって新幹線?とかそれはいいとしてもなんか第一印象は「はあ」って感じだった。後評判を追って滑り込みで観て自分の見る目なさを恥じた。

 

とにかく118分中108分ぐらいはドSモード入りっぱなし。初っ端のゾンビ発生から「いやもうこんなん無理だよ」と思わざるを得ない。終始そんな感じ。物語と画面作りが常に絶望感を保っている。

 

かと言って単調な訳ではなく、「目視確認しないと襲ってこない」という今作のゾンビルールと「特急の中」というシチュエーションを組み合わせた緩急などもつけてくる。このワンアイデアの相乗効果がフレッシュな画も見せてくれたりするのが楽しい。新聞紙をそう使うかと。

 

 主人公のソグ(髪型も相まって大沢たかおにしか見えない)は嫁と離婚し祖母と娘の三人暮らし。その割にファンドマネージャーの仕事一辺倒で娘に既に持ってるゲーム機を誕生日プレゼントしたりするダメな父親。母親に会いに行く娘の付き添いで乗った釜山行きのKTXの車内でゾンビパニックに会う。

 

ソグは仕事のコネを使って自分ら親子だけ助かろうとしたり、ゾンビから辛うじて逃れた車両間のスペースで老人に席を譲った娘に「そんなことしなくていいから今は自分のことだけ考えろ」と注意したりする。客観的に見ると利己的な人に見える。観てる時はそう思った。ただやってること自体は娘の命を守るためにできることであって、多分同じ状況に放り込まれたら自分もそうすると思うんだよね。満員電車ですら周りの人間に配慮とかしたくなくなるもんね。

 

そんな主演のコン・ユさんがどうだったかと聞かれたら真っ先に挙げて褒めたいシーンがある。部下からの電話で自社が利益目的で違法に支援していた企業の事故で今回のゾンビ沙汰が起きてることを知ったソグが、鏡の前で顔についた血を洗い流すシーン。『第9地区』のヴィカス程じゃないけど、利己的な人間が立ち上がる瞬間はグッとくる。

 

敢えて文句を言うならその後のクライマックス、泣かせるシーンの泣かせるぞてめえ感が強すぎて若干冷めてしまった。どアップでピアノはやめよう。ただ状況が落ち着いたように見えたその後のラストまでサスペンスを維持するエンターテイメント精神に免じて全て許せた。あっぱれ。おススメです。