静かなる備忘。

レビューと言いつつ映画の感想と触発されて考えたことをだらだら書いています。むしろ後者がメインになりつつある。

新作映画124:『アベンジャーズ/エンドゲーム』 ※途中からネタバレ有※

f:id:gadguard-twitter:20190427091124j:image

アベンジャーズ/エンドゲーム』

監督:アンソニー・ルッソジョー・ルッソ

出演:ロバート・ダウニー・Jrクリス・エヴァンスクリス・ヘムズワースマーク・ラファロスカーレット・ヨハンソンジェレミー・レナードン・チードルポール・ラッドブリー・ラーソン、カレン・ギラン、ダナイ・グリラブラッドリー・クーパー

 

 

※途中までネタバレなし、ネタバレゾーンに入る前に言います※

 

《インフィニティ・ウォーの感想》

アベンジャーズとしての前作、インフィニティ・ウォーの感想をこのブログに書いていなかったので、ここで簡単に。

 

あれは単体でばっちり完結した傑作だと思ってます。アベンジャーズと銘打たれてはいますが、実質的な主役はサノスです。なぜなら彼が自分なりのやり方で宇宙を救済しようと自ら行動し、それを成し遂げる話だからです。問答無用で他者の命を奪うというやり方は歪なものですが、時には愛する者の喪失に涙しながら、信念を持って進む姿は見応えのあるものだったし、ラストシーンに不思議な感慨を覚えたのは事実です。

 

(結果的な)犯罪者の姿を描いた映画でも、その人の止むに止まれぬ事情にクローズアップしたものや、確固たる思想の下で実行する姿には不思議と心打たれる時があります。何をするかより、何故そこに至り、どう実行するか。それが今の自分の思想や姿と遠ければ遠い程魅力的です。サノスには少なからずそういうところがあった。

 

もちろんそれを全力で阻止しようとするアベンジャーズとのぶつかり合いも見所しかありません。アクションシーンはそれぞれの個性を生かしつつ見易いし、シナリオは本当に整理されていて、クロスオーバーしたキャラ同士の掛け合いも気が利きすぎている。1シーン1カット足りとも無駄がない。驚くべき大胆さと繊細な心遣いに満ちた、心底すごい作品だと思いました。

 

ここまで海外コメンテーターの翻訳のような優しい口調で理性的に感想を述べましたが、最初の鑑賞直後のテンションは「いやいやいや(苦笑)……いゃあ………(溜息)……」みたいな感じでした。

 

「残った人達で頑張る」ということしか分からない予告でひたすら期待を煽り続けたエンドゲーム。サノスとまた戦うにしても、あいつを倒して皆が戻ってくるでもなし。一旦何をどう頑張るのか?期待以上に疑問が尽きない公開前でした。

 

 

《エンドゲームの感想(ネタバレなし)》

作り手側が自分たちの作ってるものとその原作が本当に好きで、それが好きなお前らも愛してるぜ!!ここまで付き合ってくれてありがとな!っていうビーム?みたいなものを全身で浴びまくってこんな感じ↓でした。

f:id:gadguard-twitter:20190427092022j:image

イデが。無限力が発動してた。

 

観終わったあとはひたすらぼーっとしてましたね。シネマシティの椅子で30分ぐらい。その後2時間ぐらい家に向かって歩きました。もう1本別の映画行くつもりだったんですけど無理でした。良い映画に浸ったあとは何もしたくなくなります。

 

スタン・リーがこの作品を観れずに亡くなったと思うと、訃報を聞いた時より切なくなってきました。改めてありがとうと言いたい。あなたとその作品のおかげで僕は今こんな思いができている。

 

MCUが積み上げてきた全てを、1本の作品の中でフル活用する豪腕。今迄は僕ら観客が自分の中で今までのメモリーを反芻して味わいが増してたんだけど、今回はもうそういう次元ではない。観客が追ってきた映像そのものが…これ以上言えない。

 

僕はウィンター・ソルジャーを劇場スルーしてシビル・ウォーでどハマりしてからほぼ全作マラソンした生粋の愚か者ですが、途中参加でも追いかけてきて本当に良かったな。小学校4年生ぐらいで転校してきたけど卒業式でドバドバ泣いた(?)

 

じゃあネタバレ有パートいきますよ。

観てない人は読まないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《エンドゲーム感想 ※ネタバレ有り※》

 

とっ散らかったありのままの感想。

 

まあ泣いた。ちょっと嗚咽が漏れたのは『クリード チャンプを継ぐ男』以来かもしれない。大の大人がヒーロー映画でウッ、グフッなどと情けない声を漏らして映画館で泣いた。サム・ウィルソンのかすれた無線が聞こえてきた瞬間涙腺が決壊した。アッセンブルで画面が見えなくなった。次は我慢してちゃんと見る。

 

この映画のベストカット。

キャップが画面左側に立ち、右側からサノスの大軍勢がやってくる超ロングのカット。絶対当初のイメージビジュアルからこれがあって、ここに向けてやってきたんだろう。絶望的な状況だけど、間違いなくMCU史上最も美しい画。本当に絵画みたいだった。万が一印象に残らなかった人がもしいたら刮目して見てくれ。

 

この映画、締めるところはこれ以上ないぐらい締めてくれるけど、ユーモアを忘れていないところも素晴らしい。特に序盤は背景のシリアスさにそぐわないレベルで細かく笑えるところが多く、満員の劇場の反応もすごく良かった。

 

MCU過去作を俯瞰して見た時のセルフツッコミとかもすごく冴えてた。GotGの伝説のタイトルバックとかはたから見ても笑えるのがすごい。

 

何と言っても前半のパートに普通のおじさんことスコット・ラングがいてくれて本当に良かった。キャップとは別種の安心感がすごい。そしてスコットを復活させたネズミがガチで全宇宙の救世主で笑った。あいつはスタン・リーの生まれ変わりだと思う。

 

サノスについて。

サノスの物語はIWで完全に完結させたと作り手も判断したに違いない。というか最初からつもりだったのだろう。IWを経た彼の首があっさりと落とされた瞬間そう確信した。

 

最終的に彼の前に立ちはだかったのは2014年から来た過去のサノスだった。当時の彼は2人の娘を手駒にする単なる悪役に見えた。そこには愛する者や無辜の命を犠牲にする覚悟の重さは見えず、しまいには地球の破壊は楽しませてもらうなどと言い出す始末で、僕にはとても前作と同じサノスに見えなかった。

 

こはちょっと残念だったってのはあるんだよね。IWを経たサノスがあんなにあっけなく殺されるのも、別人のような彼がその代わりを果たすのも。僕の理想としては数多の犠牲の上に目的を成し遂げたあのサノスに対してavengeして欲しくて、そのぶつかり合いに期待してたところもあったというか。あのサノスに対して逆襲することに生まれる意味があった気はしてる。まだ何もまとまってないんですが。何度も言う通りサノスの話は終わってて、今回はアベンジャーズのパートだからっていう割り切りは全然理解できるんだけどね。あのアゴ金玉も好きなキャラだったってだけの話かな。

 

ついでにちょい残念だったところを続けると、ブルース・バナーの扱い。彼に対してハルクやナターシャとの関係性でもって広げた風呂敷の大きさに対して畳みが足りてないんじゃないかとは思った。BIG3の割り食った感が否めず。例えばなんか戦いの中でハルクと対話して共生できるようになるとかさ。あの解決だとハルクの人格が消えたように見えちゃって微妙な気持ちになった。ハルクブルース自体は笑えたけど。荷台に乗ってるのが可愛い。車高が限界を超えて低くなってて笑った。

 

一つ観る前に気になっていたことがあって。それは指パッチンの抽選にサノス自身が含まれていたのかどうかってこと。これは映画を通して知り合った方の言だけど、「農園をやりたい」とその後の話をしてたあたり自分は勘定に入ってない可能性が高い。自分を安置に据えて他人の命をどうこうするなんて、救済という目的意識があってもやっぱヴィランの所業だよな、とは思う。

 

アベンジャーズはそれに対してアッセンブルすることで打ち勝った。さまざまな信条、能力、生い立ちを持った多様な人達が知恵や力を出し合い協力することで、可能性を閉ざし、自由を奪い、人々を分断する存在を打倒した。

 

こうして書くとヒーローものとして真新しいことをやってる訳じゃないのに、極めて現代的なテーマを描いている事が分かる気がする。しかもそこに尋常でない感動が生まれる。アベンジャーズが時代に迎合したのではなく、時代が求めるものがアベンジャーズだったのかもしれない。

 

皆で協力すればなんとかなるっしょ、なんて思うのは甘々だとわかってる。でもそういう希望や綺麗事を思い出させてくれるのが物語の力だっていうのはまだ短い映画人生で実感したことの一つだ。そういう力が本当に詰まってた。少なくともこんな青臭い感想を書かせる力はあったってこと。

 

余談。

あの世界はあの後も大変だと思う。消えなかった人はそのまま5歳加齢したのに消えた人はその時のまま。ピーターとネッドはお互い消えたみたいだからその時の姿で再会できたけど、あの科学クラブの面子で消えなかった人がいたらその人だけ卒業してしまっていることになる。チタウリの残骸からヴァルチャーを生み出すMCUならそういう齟齬すら作劇に利用してきそうな感じはするけど。あとファーフロムホームの舞台は2024年ってこと?とか気になる疑問は尽きない。

 

兎にも角にも、次の10年も見届けたい。一旦の区切りになりますが。とりあえず10年間ありがとう。万感の感謝を。

 

 

 

※ネタバレキャスト※

出演:ジョシュ・ブローリンレティーシャ・ライトエヴァンジェリン・リリーセバスチャン・スタンチャドウィック・ボーズマンミシェル・ファイファーデイヴ・バウティスタ、ジョン・ファブロー、グウィネス・パルトロー、タイ・シンプキンス、真田広之ヘイリー・アトウェルナタリー・ポートマンテッサ・トンプソンティルダ・スウィントンレネ・ルッソベネディクト・ウォンマイケル・ダグラストム・ヒドルストンポール・ベタニークリス・プラットヴィン・ディーゼルサミュエル・L・ジャクソンゾーイ・サルダナアンソニー・マッキー

新作映画123: 『チワワちゃん』

f:id:gadguard-twitter:20190127234830j:image

監督:二宮健

出演:門脇麦成田凌、筧一郎、玉城ティナ、吉田志織、村上虹郎、仲万美、古川琴音、篠原悠伸、上遠野太洸、松本妃代、松本穂香栗山千明浅野忠信

 

 

青春の擬人化。チワワちゃんという人間を一言で表すならこれかなと。彼女は若さと美貌を武器にして後先考えず気持ちいい方に走り続けていたからそう思った。理由はもう一つある。それは彼女の物語上の役割の中に見えた。

 

主人公のミキ(門脇麦)はチワワちゃんと同じグループにいたのに、彼女をあまりよく知らなかった。いつの間にか現れて、グループの中心になってて、インスタのフォロワーも抜かされて、ちょっと嫉妬していたことはよく覚えてるみたいだったけど。

 

だから彼女はチワワちゃんがバラバラ死体になったことをきっかけに、チワワちゃんのことを知ろうとした。もうこの世にいないのに。

 

しかし僕にはそれが建前に見えた。楽しかったあの頃に戻るための建前に見えた。生前の彼女を知るために、かつてつるんでいた仲間を訪ね歩くことで、かつて確かにあった青春の残滓を掬いとろうとしているように見えた。

 

チワワちゃんはこの映画において主人公の青春そのものであり、そしてこの映画は彼女の名を冠している。

 

エンドロールを眺めている間中、切なくて仕方なかった。観ている時は、時に醜くていびつに見えた彼らのあの頃の一瞬一瞬がかけがえのないものに思えてきて。こんなパリピなルックの映画からこんな後味がするのかという嬉しい驚き。

 

そして観て5日程経った今、この映画そのものが自分の中でかけがえのないものになりつつある。もう一度観たら理由がわかるかな。

 

ただ一個理由として確かなのは、二宮健監督(27)がスクリーンを引きちぎる勢いで自分の爪痕を残そうとしてたことがビンビンに伝わってきたこと。この人の映画を初めて観たけど、タイトルロールの前に監督の名前出るとこでめちゃニヤついた。

 

ともすれば嫌悪感も残しかねない筆致の荒さだったけど、この映画では眩すぎる一瞬の火花としての青春を描くのにすごくマッチしてたと思う。この人でなきゃこんなに残らなかった。

 

早くも今年ベスト級出ました。出ました。

新作映画122: 『クリード 炎の宿敵』

f:id:gadguard-twitter:20190122153012j:image

監督:スティーブン・ケイプル・Jr.

出演:マイケル・B・ジョーダンシルベスター・スタローンドルフ・ラングレンテッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド、フロリアンムンテアヌブリジット・ニールセン

 

前作の感想はこちら。

(今でも拙い感想だけど初期も初期なのでさらに恥ずかしい)

新作映画レビュー:003 『クリード チャンプを継ぐ男』 (+ロッキーシリーズ) ※ネタバレ無 - 静かなる備忘。

 

前作の『クリード チャンプを継ぐ男』が人生ベスト級に好きだ。故に上がり続ける期待値と無名の新人監督へのバトンタッチ要素に感じる不安がせめぎあったまま公開日を迎えた。1回目は公開日鑑賞にこだわるあまりコンディションも万全でなかったので、2回目は完璧な状態で判断したいと思い1週間でロッキーシリーズ7作を観返し、体調も万全に整えて赴いた。

(なぜか初見で微妙だった5がすげーよかった。)

 

1回目の印象が帳消しになったわけではないけど、シリーズ、とりわけロッキー4とクリード1へのリスペクトが詰まった素晴らしい続編だった。

 

何と言ってもかつてのロッキーの宿敵ドラゴとその息子ヴィクターが登場するシーンはすべて良い。栄光や名誉とは縁遠い現在の彼らの暮らしぶりと、それを表すようなウクライナの寒々しい空気感が伝わってくるファーストシーンで既に心を掴まれた。息子の単なる栄養補給でしかない飯の食い方(一人飯シーンのある映画は名作)とか、ドラゴの無慈悲な起こし方とか、喜びのない生活をずっと二人でしてきたんだなと。特に2回目は知っているだけに余計切ない。

 

アドニスは初めて公衆の面前で完膚なきまでに叩き潰され、子どもとかいう未知の生物まで抱えた受難が苦しい。僕は人生で一番辛い時というのは、辛い目にあってる時もそうだけど、解決すべき問題があるのはわかってるけど踏み出せずに悶々としている時でもあると思う。チャンピオンという立場にかかるプレシャーや、強敵への恐怖で動き出せないアドニスを見守るこっちも辛かった。だからこそ覚悟を決める瞬間のアドニスを背後から見守るアポロの構図は本当にグッときた。

 

そういう溜めもあってトレーニングシーンは「やったれやったれ」と拳を握って心中で応援した。熱砂の土地での猛特訓はドラゴ親子の寒冷地での粛々と行われるそれとは好対照でキマっていたし、シリーズでも観たことのない味があってよかった。ハイウェイのダッシュといい、水中でのトレーニングといい、この監督は要所の画面もハッとさせられる。

 

そんな二人の決着のつけ方の意味するところを考えると、もうこれ以上ない幕引きだったと思える。ロッキー4のやり直しでない上に、ドラゴの中の変化を言葉でないアクションで描いた、考え抜かれた結末だった。観終わった人の中から「あの敵の親子がかわいそう」みたいな声が方々から聞こえてきて、もちろん境遇を鑑みればそう思う。でもロッキーの言葉を借りるなら彼らもまた「自分を憐れんではいない」はずだ。あの行動をとったドラゴとヴィクターなら、本当の意味で自分のために戦えるだろう。試合後の1カットは冒頭と同じなのにまったく違うものに見えた。

 

全体の印象として、特に振り返りの予習などをせずに公開日に観た1回目は、ぶっちゃけそこまで来るものはなかった。するまいするまいと意識していたのだけど、やっぱり前作と頭のどこかで比較してしまっていた自分はいた。今作は前作より印象的なシーンが少なく、特に前半は割と淡泊な感じすらあって、ドスンとくる感じがなかったなという印象が先行した結果だと思う。敢えて言うならファイトシーンの迫力や、要所要所の劇的な演出はクーグラーの方が上手で、自分はそっちのが好みだった。かな。というのは。ある。

 

いやでもスティーブン・ケープル・Jr.は立派に役割を果たしたよ。素晴らしい仕事だった。

 

2018年新作映画ベスト10・他の話。

f:id:gadguard-twitter:20190102110114j:image

あけましておめでとうございます!!

2018年の新作映画ベスト10だヨ。

 

2018年は4月頃から通勤電車でやらなきゃいけないことができちゃってこのブログお休みしてました。ご無沙汰してました。これを機にぼちぼちリハビリしてく所存です。前は新作全部書いてたけど、2本に1回ぐらいは書きたい…ですね。

 

映画館で観た新作は45本で2017年から10本減ぐらい。乱雑な感想とまとめたので読んでやって下さい。

 

 

10位:ゲッベルスと私

f:id:gadguard-twitter:20190102110125j:image

7月26日、神保町シアターで。

 

ナチスドイツの宣伝大臣・ゲッベルスの秘書を務めていた御年103歳のブルンヒルデ・ポルゼムの証言を収めたドキュメンタリー。

 

ドキュメンタリーなのに、ファーストカットから「これは!!」と思った。コントラストをバッキバキに強調した白黒の画面に深く刻まれた皺、分厚い眼鏡のレンズ、憂いに満ちた眼差しが後悔と共に過ごした年月を一発で感じさせたから。被写体として優秀な人。

 

インタビューとそれを裏付けるような当時のフッテージが挿入されるので、納得度が高くテンポもいい。

 

当時無知で条件の良い仕事を言われるままこなしていた彼女を責める気は毛頭ないけど、この映画を観た後では、無知が無罪とは思えなくなってしまう。思い出したくもないだろうに、わざわざ矢面に立ってくれたことに感謝。

 

 

9位:寝ても覚めても

f:id:gadguard-twitter:20190102110142j:image

9月8日、テアトル新宿

 

突然失踪した元カレに未練たらたらなまま性格は全く違うけど顔は同じな今カレと付き合ってたら元カレ再登場でどーしよーッ!?っていう感じの話。

 

麦(元カレ)と朝子の関係性が突飛すぎて、ラストシーンをやるために2人が動かされてる感じ、つまりあまり血が通った人間に見えないって不満もあるんだけど、ラストが見事だったので結局ランク入り。ラストはぐちゃぐちゃだけどキャラが生きてる感じがしたという意味で去年のベスト『あゝ、荒野』と対照的な気がした。

 

衝動で結ばれた恋人と情で結ばれた夫婦の対比が非常に映画的に表されてて見事だった。つまり、前者同士は向かい合ってお互いを見る構図が多いんだけど、後者は同じ方向を向いて何かをしているのが多いんですよ。この対比がシビアだけど、うわー映画っぽ!!って感服した。濱口竜介監督、噂に違わぬ逸材でした。

 

 

8位:カメラを止めるな!

f:id:gadguard-twitter:20190102110153j:image

7月9日、新宿K'sシネマで。

 

観た直後「こんなん誰がどう見ても面白いし海外でもかかんねえかな」とツイートしたんだけど、これはどっかの映画祭とかに引っかかってかけてくれないかな程度に思ってただけで、まさか日本中のシネコンにムーブオーバーして流行語大賞にノミネートされるなんて夢にも思ってなかった。

 

準備パートを経て再びファーストシーンに戻った時の、「同じことやってるのに響きが全然違う!!」と興奮と大笑いが同居した感じは忘れられないだろうな。上田慎一郎監督の今後のフィルモグラフィーがどうなるのか非常に気になる。

 

 

7位:志乃ちゃんは自分の名前が言えない

f:id:gadguard-twitter:20190102110201j:image

8月3日、シネ・リーブル神戸で。

変なホールの地下みたいなとこにあってわかりにくかった。

 

吃音でうまく喋れないけど歌が上手い志乃ちゃんと弾き語りやりたいけど歌が下手な加代ちゃんがデュオで路上ライブとかやり始めるんだけど、クラスで浮いてる男子の介入とかで色々ある話。

 

神戸旅行に行ったとき予定が合ったから観たけど、思わぬ掘り出し物で嬉しくなった。

 

互いのコンプレックスや不得手を認め合う美しさにニヤけ、思春期のアイデンティティの脆さはもどかしい。誰も悪者ではない。痛さの先に踏み出した時新しく射す光に感動。こういうの本当弱いっす。そのうち新しくできた友達に笑って話せる思い出になるといいよね。

 

あと田舎の海辺の町が舞台なんだけど、ロケーションが最高だった。どこなんだあれは。

 

 

6位:華氏119

f:id:gadguard-twitter:20190102110209p:image

11月16日、TOHOシネマズ新宿。

 

マイケルムーアがトランプ撮ったら面白いジャーン」と意気揚々と足を運んでやられた。トランプのことは冒頭で軽く小バカにして終わりで最早ムーアの眼中になく、トランプと同じく資本家目線で政治を動かすやつが何をやらかしているのかを中心に、現在のフッテージのパッチワークを通して観客の目線をも未来に向けさせようとしていたところに感心した。

 

ゲッベルスと私』と同じく、大衆の無関心や諦めがのさばらせる欲望の危険性を(こっちはいくらかライトに)説いているように感じた。

 

世界はやらない善人よりやる悪人が動かしている。船が止まれば流れに流されるしかなくなる。今日本のどれだけの人が自分のオールを手放していないのか、そもそも持っていることがわかってるのか。映画館を出た後の歌舞伎町の景色が気味悪いぐらい違って見えた。

 

何より8:2で負けると予想されていたトランプの当選をムーアが的中させたという事実がこの作品の価値を押し上げてる。観てよかった。てかまあ単純に面白いよ。

 

 

5位:バンクシーを盗んだ男

f:id:gadguard-twitter:20190102110638j:image

8月17日、新宿シネマカリテで。

 

世界的かつ正体不明のストリートアーティスト・バンクシーパレスチナに出現、イスラエルとを分断する高さ8メートルの壁に1枚の絵を描いた。その絵が住民たちの反感を買い、切り取られ売り飛ばされてしまう。実行した内の1人のタクシー運転手への密着をはじめ、負の側面も含めたその影響を記録したドキュメンタリー。

 

2016年、『バンクシー・ダス・ニューヨーク』でバンクシーの作品がニューヨークに巻き起こしたムーブメントを初めて目の当たりにした。とりわけ印象に残ったのが街中の作品の前に居座って「バンクシーのアートを見たけりゃ俺に金を払いな」とか言い出す屈強な黒人。自分には、言ったら壁の落書きが人々の行動に与える影響が興味深く見えた。

 

話は逸れるけど、この映画を観る1ヶ月ほど前にも同じような体験をした。金沢旅行の中で現代アートの展示で有名な21世紀美術館に足を運んだ時のこと。インドネシアの45歳の女性の個展だったんだけど、作品を見れど見れど全く意味は分からなかった。2m×2mぐらいのキャンバスに、ある程度色が統一された絵の具が無造作(に見えた)に踊っている作品が大半を占めていた。たまに何らかの形に見えるものがあり、「これ龍じゃない?」とか言いながらぷらぷら鑑賞した。

 

作品自体に対しては始終そんな感じだったんだけど、見ている間「この作品から何かを受け取り、価値を見出し、値段をつけ、買い取り、運び、展示する『人間』がいる」ということが面白くて仕方がなかった。大学生の時授業で岡本太郎の勉強をしたことがあって、今思えばその時も同じ感覚を覚えていたような。

 

という訳で、この映画はそんな自分の興味の器を溢れんばかりに満たしたくれた。謎の男の壁の落書きが人々の中の何かを刺激し、行動させる。その渦中に一歩踏み込んでそれぞれの感情、考え、スタンスに迫る。人間と作品の関係性って面白いなあとつくづく思った。この手の作品があったら是非教えて欲しい。

 

 

4位:アベンジャーズ インフィニティ・ウォー

f:id:gadguard-twitter:20190102110300j:image

4月27日、立川シネマシティ。他2回。

 

最初チャンピオン枠というか特別賞的なとこに入れようかと思ったんだけど、そっちは別の作品にしたので、真っ当にランキングに入れて考えたらまあこの順位になるよねという。

 

サノスを軸に据えた極めて整理された話運びのわかりやすさ、各キャラの見せ場の用意周到さ、アクションシーンのかっこよさ、終わった後の劇場の空気、本当に言うことないっす。ブラックパンサーしかMCU観てない彼女を連れて行ったら「サノス先輩はいい人だ」と楽しめていたのも素晴らしいなと。

 

エンドゲーム、伏して待つ。

 

3位:太陽の塔

f:id:gadguard-twitter:20190102110341j:image

10月7日、新宿シネマカリテ。

 

岡本太郎が大阪に打ち立てたあの塔は何だったのか、何なのか、何になっていくのか?様々な分野の専門家や芸術家のインタビュー映像を繋げたドキュメンタリー。

 

バンクシーを盗んだ男』と、(一見意味不明な)芸術に解釈と価値を与え動かされる人々のドキュメンタリーという共通点はあるんだけど、こっちは行動より解釈にフォーカスしている感じ。

 

太郎が万博に携わった経緯や彼の生い立ちは導入で一応やるんだけど、何せ面白かったのは語り部たちがそれぞれの立場から太陽の塔のルーツや込められた意味、類似する文化や学者の思想、この先あの塔が果たす役割を、熱に浮かされたように好き勝手語りまくるところ。

 

この人たちの様子を見てるだけであの塔にどれだけのパワーがあるのか伺える。これはナレーションを排してインタビュー映像のみを繋げたのが功奏してる。内容は勿論なんだけど、語ってる人の熱が伝わってくるのは映画ならではだと思う。

 

映画ならではと言えばドキュメンタリーにも関わらず要所要所で差し込まれるドラマパートもすごく良かった。下手すると寒い感じになりかねない気もするんだけど、現人類が滅んだ後も居続ける太陽の塔と対峙する少女というイメージが、このインタビューのパッチワークをただの資料ではなく、魂の入った映画に昇華するための芯を通しているように感じた。

 

1970年の大阪万博は「人類の進歩と調和」名の下でそれぞれの国がその国の文化や技術の到達点を展示する催しだった。それらパビリオンは跡形もなくなって、2004年の愛知万博から14年経った今も、そして恐らく2025年の大阪万博が終わっても尚そこに立ち続けて、その時の人は何かを受け取るだろうなって確信がこっちにまで伝播してきた。

 

(母校の教授が実質主演みたいに出番が多かったのに驚きました。)

 

 

2位:パシフィック・リム アップライジン

f:id:gadguard-twitter:20190102110351j:image

4月21日、TOHOシネマズ新宿。

 

褒めている人をあまり見たことがない。でも俺はめっちゃ好きなんすよ。普通に考えてアベンジャーズIWよりこれが上ってことはないよ。ないけどなんかもう可愛いのよ。出来悪いけど一生懸命作った感じがどうしても好き。

 

ヒロインの子が主人公と土壇場でドリフトして前作でジプシー・デンジャーがやってた包拳礼みたいなポーズやるじゃん?やった瞬間ドリフト上手くいかなくなってぶっ倒れるじゃん?僕はここがスティーブン・S・デナイトの謙虚さの表れだと思ってて。「俺はデルトロみたいに上手くできないけど彼のことはリスペクトしてるから頑張るよ!!!」ってメッセージに見えちゃってさ。この作品のキュートさを象徴するシーンだと思ってる。

 

でもフラットに見ても前作より良いところは沢山ある。まず全編通して昼間の戦いであること。まあ絵面は夜のがかっこよく見えるんだけど、何が起こってるかわかりやすいし、イェーガー(ロボ)のディティールもよく見える。戦闘シーンの見せ方も申し分なく、少なくとも何やってるかわかんないようなところはなかった(上手いかどうかは知らん)。

 

あとイェーガーvsイェーガー戦をガッツリやってくれたところ。1でvs怪獣だったら2はvsイェーガー同士の戦い見たいもんやっぱ(平成ライダーファン並の感想)。オブシディアン・フューリー(黒いロボ)が初登場するとこで海から鳥が飛んでくるとこめっっっっちゃ好き。巨大なヤツが来る!ってワクワク感をくすぐる予兆の描写が上手だとそれだけで満足できてしまう。巨大感演出も冒頭のスクラッパー(可愛い)とノーベンバー・エイジャックスのとことか良かったですし。

 

そして何より全体的に明るいところが好きだ。ジョン・ボイエガをキャスティングして昼間のシーンばっかりなあたり意図的なんだろうけど、人類が窮地に陥っていて皆割と余裕がなかった前作とは真逆のアッパーなテンションが好ましい。まあ観た時期も良かったのかな。

 

特にスクラッパー再登場(アニメみたいで最高)以降はド根性マシマシのハチャメチャ展開で笑ってしまうレベルなんだけど、「いや、でも元々ロボットアニメとかこんな感じだったよな」とむしろ肩の力を抜かれた上でライドできた。決着のつけ方は本当に「おい最後はマジンガーZでキメようぜウェェェエイwwwww」という身体は大人頭脳は子どもな作り手たちの笑い声が聞こえてくるようで、そのままゲタゲタ笑いながら富士山で雪合戦やって終わりという清々しいラストで大変元気になって映画館を出たのだった。ちなみに去年の元気映画枠は『ジャスティス・リーグ』。2019年もこういう映画に出会いたいぜ。

 

まあ敢えて言うなら前作キャラの扱いは叩かれてもしゃーないかなとは思う。僕は前作も大好きだけど、逆にこれを観て「そもそも前作も大した映画じゃなかったし、少なくともあれやデルトロを神格化してこれを叩くようなことは絶対あり得ないな」と思った。

 

 

1位:きみの鳥はうたえる

f:id:gadguard-twitter:20190102110402j:image

9月28日、新宿武蔵野館

 

観た直後のツイートが端的に感じを言い表しているような気がするので貼り付け。

 

映画を観た後電車に乗ってスマホ見てると最寄り駅につくまでに覚めて現実に戻っちゃう感覚があるんだけど、この余韻から抜け出したくないな…と久しぶりに思った映画。これを味わいたくて映画館に行っている節がある。こういう時は気が済むまで線路沿い歩いて帰るんだけど、劇中の彼らの真似して缶のハイボール飲みながらフラフラ終電まで歩いた。ちなみに去年のベスト『あゝ、荒野』の時も同じような感慨に襲われて、歩いた。

 

具体的に何がよかったかと考えると意外と難しい。すごい不思議なんだけど。でも自分の日常と大差ないことやってたり、同じようなことを感じてる人たちが本当に美しく見えたからっていうのはある。大げさに言えば人生が良く思えるようになった。上のツイートの通り、その点で日本映画は日本人の僕には絶対的に分がある。三宅唱監督の映画は初めて観たけど本当に優しい人な気がした。

 

 

特別賞:ANEMONE 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション

f:id:gadguard-twitter:20190102121319j:image

11月14日、TOHOシネマズ上野にて。

会員デーで1100円で観れたのに6ポイント無料鑑賞使っちゃったの一生悔やむな。

 

もうこれは順位がつけられなくなってしまったので特別賞。

 

僕は賛否両論(否かなり多め)なハイエボ1も去年の4位に据えるぐらい好きなんだけど、一本の映画としてはまあ叩かれても仕方ないよなとは思ってた。

 

しかしこの2は遂に一本の映画としてもエウレカセブンの新作としても、良いものができたてよかったねえと素直に祝いたくなるような出来だった。相変わらず観客どこらかファンすら置いてけぼりなところもなくはなかったけど、今回は観客の手を引いて無理やり遠くまで連れて行くようなパワーがあったのは間違いない。

 

後半の展開は「なにこれ?笑」と半笑いで眺めていたんだけど、不思議と嫌な気はしなかった。ガリバー可愛いんじゃ。そしてラストでまんまとやられた。お前とも長い付き合いだけど貫禄がでてきたよね。

 

そもそも僕はテレビ版は好きだけど大して良くできたアニメではなかったと思ってるので、このハイエボシリーズは既にテレビ版を凌ぐ出来になっていて全肯定したいレベルになってる。ハイエボ3も2の路線で駆け抜けて欲しいなあ。超期待。

 

 

というわけで2018年のベスト10+特別賞でした。ドキュメンタリー映画の面白さに目を開かされた年だったので4本ランクインという結果に。

 

次点は以下。

来る、ギャングース日日是好日愛しのアイリーンちはやふる 結び、スリービルボードブラックパンサーいぬやしき君の名前で僕を呼んで、斬、

(ちなみにアベンジャーズ IWをランキングに入れる前は『斬、』を10位に据えてた。)

 

ワースト。2018年は本当に「こりゃダメだ。クソだ。悪口言わなきゃ気が済まねえ。」みたいのはなかったので特にないんだけど…本当に敢えて言うなら『羊の木』かな。主人公が終始何もせずに神の鉄槌でジエンドはない。バンドシーンとか会話シーンもダラダラして良い印象がない。悪い映画ではないけど全く刺さらなかった。沢村一輝がよかった。思えば2017年はワースト枠が豊作だったな。

 

あと、極個人的な不満で、今年は特撮映画が不作だった。『劇場版 ウルトラマンジード』『劇場版 仮面ライダーアマゾンズ 最後ノ審判』『仮面ライダービルド Be The One』『仮面ライダー 平成ジェネレーションズFOREVER』の4本。平成ライダーアニバーサリーのジオウは面白いし、来年は新元号ライダーもスタートするしとにかく今後に期待ですね。

 

旧作ベストは『シング・ストリート』。噂に違わぬ傑作でした。ラストシーンの一見壁に思える大きな存在もやっぱり君を導いてくれるよってメッセージに感動した。そしてラストの彼の表情と監督からのメッセージで好きにならない訳がない。全ての兄弟たちへ。

 

というわけで皆さん2019年も良い映画ライフを送りましょう。また!

 

 

『仮面ライダー 平成ジェネレーションズFOREVER』のマイナビニュースの件の愚痴です。

f:id:gadguard-twitter:20181222125502j:image

 

久しぶりの更新がこんなのでアレなんだけど。Twitterでブチまけられないレベルの怒りが抑えきれない。何より今日公開の映画に関することなので。

 

仮面ライダー 平成ジェネレーションズFOREVER』が本日公開になりました。その内容に関する重大なネタバレを恐らく日本初上映から1時間半程度で見出しでやりやがったマイナビニュースのクソへの愚痴です。

 

 

公開初日の朝10時の回を予約したの。その館では朝8時に続いて2回目の上映。

 

去年の今頃の映画は初日初回に行ったのかな?劇場で発表された会場がどよめいたサプライズニュースがTwitterに流れてて、「ああ、先に観てよかった」って思った記憶がある。それは次作の告知だったんだけど。

 

で、映画館に着いて9時半頃に何の気なしにTwitter開いたの。初回の上映の人は今まさに観てるところだし、さすがにネタバレはないだろうと思って。そしたらマイナビニュースさんが内容に関するネタバレを思いっきり見出しに書いた記事をアップしてたんすわ。いやショックでしたよ。正直。今回の映画は仮面ライダー映画史上でも異例の前情報の少なさで、事前の一般試写などもなかったほどだったので。

 

でもこう思ったの。

 

「公式が解禁ならマーケティング的に仕方ないし、観る前にTwitterなんか開いた俺も悪かったな」と。

 

で、観終わるじゃん。Twitter開くじゃん。そしたらマイナビニュースが謝罪してツイートと記事削除してんすよ。いや、無理くり納得して観てたんですけど俺。アホかと。

 

公開後の内容のことだから裁量がマスコミ側にあるんだろう。正式なニュースリリースなら版元から「掲載お願いします。情報解禁はいついつです。厳守。」みたいな感じで情報が来るはずだから。

 

いや、でもここまで伏せてきた東映さんの気持ちですよ。事前に情報を出してた場合のことは内容に関わるので言いませんが、一つ言えるのは伏せてたのはファンへのサプライズのためってこと。それはもう間違い無いです。

 

それを日本で最初の上映から1時間半程度でバラしたのよマイナビニュース。しかも見出しに大々的にのっけて。ファンを思う版元と無辜の観客の気持ちを話題性先行で台無しにしたわけ。しかも版元とファンって自分たちの食い扶持ですよ。それを貶めるような真似して何考えてんのマジで。

 

アベンジャーズ インフィニティウォーのラストの展開を見出しで最速上映中にやるメディアがいたかよ?頭使えよ本当に。

 

 

新作映画121: 『15時17分、パリ行き』を直近の2作を踏まえて。

f:id:gadguard-twitter:20180524154901j:image

15時17分、パリ行き

監督:クリント・イーストウッド

 

ガキ使が好きな人はタイトルを聞いて和田アキ子の「15歳、公園」を思い出したのではないだろうか(?)

 

自分は観た時ホモソーシャル(男同士のワチャワチャ)と各地の美人を楽しめる一挙両得な映画だなあ、という以上の感想が特に浮かばなかった。俺がイタリアに行った時はあんなエロエロで愛想の良いホテルのフロントはいなかったしお楽しみナイトみたいのもなかったよ。

 

これで終わりでもいいんだけど、問題はこれがクリント・イーストウッドというすごい人が撮った映画ということだ。

 

3人の主人公の内2人が祖国アメリカのために磨いてきた身体能力や格闘技術がフランスの名も知らぬ人たちを守るためにたまたま役立ったという奇跡を、物足りなさを覚えかねないレベルで至極フラットに描いたことは、イーストウッドの直近の2作を踏まえると面白い。

 

‘15年の『アメリカン・スナイパー』はイラク戦争愛国心から敵兵を殺しまくってPTSDになった男の話だった。昨年の『ハドソン川の奇跡』はプロフェッショナルが事故から市民の命を守ったが、その判断は正しかったのかどうか検証する映画だった。設定だけ見たらこれらのハイブリッドみたいだ。全部実話なのに。

 

『アメリカン〜』は原作である手記からの設定を変更したり、演出もかなりフィクション寄りだった。敵国の子供を射殺したり、実際に存在しなかったライバルのスナイパーを登場させたり、映画用に手が加えられていた。ここは事実に基づいてるかどうか知らないけど、PTSDの影響から自分の子供に銃を向けるシーンなんてのもあって、イーストウッドは少なくともイラクへの派兵に懐疑的で、その傷を負ったクリス・カイルの悲劇性を強調したいように見えた。

 

ハドソン川〜』はパリ行きに近いテイストの作風で、実際の事件をありのままに近い感じにやっている風だった。面白いのはその判断の是非を問う調査委員会のやり取りに重点を置いているとこで、単なる英雄譚にはしないという姿勢。単なる賛辞にしたければそれまでの彼の一生でも描くことができたはず。

 

じゃあ今回のパリ行きはどうだったかと言うと、表面上の淡白な作風でもってあえて一定の着地に誘導せずこちらに考える余白を与える感じは『ハドソン川〜』のそれを引き継ぎつつ、裏には『アメリカン〜』で描き込んだ戦争や愛国心への皮肉の血が流れているように感じた。「本当は故郷のために敵国の兵士を殺すために培った力が、旅行で訪れた他国の人間を守るためにたまたま発揮された」という事実をわざわざ映画化したのには、そういう意図があるように思える。

 

まあ観てる時は1ナノも思わなかったけど、改めて考えれば味わい深い映画だなあと。勝手にイーストウッド10年代アメリカ3部作って呼ぼうかな(ネーミングセンス)。次は『ジャージー・ボーイズ』みたいのでも全然ウェルカムっすね。

新作映画120: 『ブラックパンサー』

f:id:gadguard-twitter:20180505104718j:image

 

監督:ライアン・クーグラー

出演:チャドウィック・ボーズマンマイケル・B・ジョーダンルピタ・ニョンゴダナイ・グリラマーティン・フリーマンダニエル・カルーヤレティーシャ・ライト、ウィンストン・デューク、アンジェラ・バセットフォレスト・ウィテカーアンディ・サーキス、ジョン・カニスターリング・K・ブラウン 他

 

※おおすじネタバレしてます※

 

ご無沙汰でした。2ヶ月弱放置するとなにから書いていいかわからない

 

クリード』のライアン・クーグラーの続編がMCUの最新作って!!って!!とラン・ザ・ジュエルズの曲が使われたティーザー予告をリピートし続けていた。実際観てみると予想以上に単体の映画として完成度が高くて、何よりライアン・クーグラーの映画になっていて素晴らしかった。敢えて言うならアクションシーンの決め手に欠ける(1番の見せ場が2つある予告の両方で使われていたのも痛かった)かなあというぐらい。

 

父が子に故郷の歴史について語る冒頭のシーンは、1回目の鑑賞と2回目のそれでは趣きや響きの重さが全く異なることは観た人ならわかるだろうけど、それには2つ理由がある。1つは会話をしているのが今作のヴィランのエリック・キルモンガーとウンジョブであることがわかるから。ちなみに僕は初見時二人がマンションの部屋で再会するとこで気づきました。

 

そしてもう1つが、そのやりとりのシーンの最後が幼子のある一言によって締めくくられることにある。それはワカンダが自らの国の秘密や利益、平和を維持するために国外の問題に対して無干渉を決め込んできたことに対する「どうして?」という言葉。このあまりに純粋な疑問がこの作品を貫くテーマであり、その後の悲劇をきっかけに疑問は疑念に変わり、男は復讐に挑む。

 

バックボーンといい、監督の盟友であるマイケル・B・ジョーダン(実は同じMCUのファルコン役のオーディションに落ちた過去がある)というキャスティングといいドラマの主演だったし、MCU最高のヴィランの一人なのは間違いないと思う。貧民街で育った黒人が自分の出自に疑問を持ち行動するっていうのはクーグラー監督の過去作『フルートベール駅で』と『クリード』のハイブリッドみたいな設定だし、それが一国や地球規模にスケールアップしていくのがMCUならではだなあと不思議な感慨があった。

 

それに対して一応の主人公であるティ・チャラ陛下はいまいち弱い。実質の世襲制である王座もブラックパンサーとしての資格にも、「そういうもんだから」以上の動機が見えてこない。しかし尊敬する先代の王である父が犯した過ちを知り、再び対面した時彼は初めて感情を剥き出しにして怒る。そして父の過ちが生んだ悲しき怪物を退け、彼の意思をも継いだ若き王は、先代王が降りたつことのなかった、アメリカの貧民街の地面を踏む。終わる頃にはワカンダフォーエバーと叫びたくなっていた。

 

国連の前で自国の技術を提供することを宣言したことに突っ込まれてニヤニヤする陛下は観客と同じ気持ちを共有していて最高だし、「この宣言をした直後に宇宙を脅かすヤバいゴリラと地球を守るためワカンダで決戦を繰り広げるんだな…」というMCUならではの感慨に浸れるのも良い。

 

いや素晴らしかったです。2もクーグラー監督に続投して欲しいけど果たして…?