新作映画レビュー31.5: 『海よりもまだ深く』 後編&ロケ地巡り小レポート
『海よりもまだ深く』
監督:是枝裕和
はい、遅ればせながら2回目を観た上で後編です。なかなか書くことが思い浮かばんと悩んでいたのですがらキネマ旬報の'16年6月上旬号の是枝裕和監督と作家の小川洋子さんの対談を読んでいたく共感した部分があったのでそこから入りましょう。
対談の中で小川さんが(ちょっと手元にないのであやふやですけど)「各キャラに少しづつ自分の一部分が見える」みたいなことを仰ってたんですよ。これがとってもわかる。一人のキャラに丸ごと自分を重ねるんじゃなくて、複数の人に自分の内面的な部分も外面的な部分もひっくるめた諸要素が偏在している感じがするという。だから観てて単純に「あるある」と面白がりながらも、「自分だけじゃないんだ」という安心感がを抱くというか。これは前編でも書いたことですけど、それらすべてを肯定的に描き出してくれていることが、僕が感じたこの映画の座りの良さの正体なのではないかと思います。
ただ「僕らのモテるための映画聖典メルマガ」内で、一言で言うと「甘やかし、傷の舐め合いに見える」という否定意見があって、それも大いに頷ける。頷けるというか上記の僕が感じたことは言い換えればそういうことにもなり得ますから。
『ヒメアノ〜ル』の記事でもギャーギャー騒ぎましたけど、僕は映画で「一見理解不能な人の内面や動機を観ること」が大好きなので、その良い意味でのしわ寄せがこの映画できたのかもしれません。上手く言えませんけど。
余談。この2本がほぼ同じタイミングで観られたってだけで2016年は僕にとって相当デカい年だなあと思います。4月まで観たい邦画が本当になくて不安だったけど、『ちはやふる』といい『アイアムアヒーロー』といい『ディストラクションベイビーズ』結果的に今年は邦画が本当熱い。『セトウツミ』『日本で一番悪い奴ら』『クリーピー』『葛城事件』『シン・ゴジラ』と期待作が控えまくっているのも嬉しい。
この映画の総括としてはそんな感じです。ここからは良いと思った内容やシーンに触れながら、あれば自分に重なるところなども吐露できたらいいと思っています。なので観てない人は読まないことをオススメします。ていうか早く観よう?
はいほんと月並みですけど、この映画の魅力の一つは登場人物の実在感だと思います。そのための演出で感心したのは冒頭で良多(阿部寛)が買ってきたケーキの袋と箱を淑子(樹木希林)がたたみ、紐を結ぶところ。もう身体が自然に動いてる感じが出てて、ひいてはその店のケーキをいつも食べてるっていうのも動作から伝わってくる。
ちなみに僕の母も同じようなことをよくやってました(最近は行かないので知りません)。小さい頃の記憶で一緒にファミレス行った時、ビニールに入ったお手拭きで手を拭いた後必ずそのビニールを結ぶんですよ。僕もそれに倣ってたらしくて、今でも必ずやっちゃいます。てかもうやらないと気持ち悪くて。箸袋とかでもやってます。一緒に行った人によく突っ込まれるんですけどもう癖になってる。多分良多もやるはず。
あと僕は一人っ子なので真悟くん(吉澤太陽)が(名前の通り)ちょっと悟ったようなことというか、時折(元)親に気を遣った発言をするのもなんかわかります。以前同じく一人っ子のバイトの元先輩と飲みに行った時、その人が「一人っ子は親からのものを一人ですべて受けなきゃいけない」と言ってて、それがとても腑に落ちました。他に親の相手してくれる人がいれば自分は見知らぬ顔できるけど、そうもいかんので親の喜怒哀楽受け止めなくちゃいけない。それ繰り返してると真吾くんみたいに親の顔を伺いがちになるんじゃないかと。スパイクのシーンとか顕著ですよね。特に良多はあからさまに問題の多い大人なので彼なりの気苦労が絶えないのではないかと…。
加えて、当たり前ですが家庭の中で同じ立場で親のことを共有する相手もいないので、自分の中で考えざるを得ない。従って本当に言いたいことも胸の中にしまいがちになるんじゃないかなあ。家庭のことなので中々友達にも言いづらいし、小中学生なら尚更でしょう。正直響子(真木よう子)の今彼(小澤征悦)がそういう本音を吐き出せる存在になれるようには到底見えないんでそこは不安だよ。僕は真悟くんぐらいの頃頭の中に上に書いたような意識があったわけでもなく、無意識にそういう悶々としたものを抱えてたのかもしれないです。真悟くんを見ててそういうことが頭をよぎりました。
あとは池松壮亮演じる町田。彼が良多とパチンコ打ってるシーンがこの映画で一番好きです。同じく一番印象に残ってるセリフは車の中で言う「もう忘れました」かな。ばっちり憶えてるのにまだその夢から目線を切れてない感じがぁぁぁ。池松くんまだ26で顔も良いのになんであんな哀愁漂ってるんですかね。パンフレットに「僕の人生もこんなはずじゃなかったことだらけです」とコメント寄せてましたけどね。つくづく惹きつけられる人だなあと。
はい、結局また自分語りになっちゃってあれなんですけど。(「あれ」と言えば『海街diary』では台詞の中に何度かしか出てこなかったけど、今回は爆発的に数増えましたね。ある種禁じ手的な気もすんだけどこの作品のトーンからすると許せる)まあ是枝作品の魔力のせいなのでセーフです。
こっからはロケ地巡りレポート。初めてこの映画観た時「清瀬かよ!」って心の中で突っ込んじゃうぐらい近所なので自転車だらだら1時間ぐらいこいで行ってきましたよ。練馬の一軒家から清瀬の団地に越すって、思えば練馬区の高校通ってて、その2地点の中間から少し離れたところに住んでる身としてはリアルな距離感に感じられたのも観る上で良かったのかもしれません笑
駅降りてすぐの場所で撮ったパノラマ写真。良多目線を体感。
階段を登るとすぐ右手に例の立ち食いそば屋。劇中と同じアングルでも一枚。おばちゃん2人が談笑しながら回してていい感じでしたよ。客層も買い物袋提げた婆ちゃんとか、良多みたいなヨレヨレの柄Yシャツきたおっちゃんだったり、清瀬って感じなんだよね…笑
団地だから似たような写真が並ぶ。平日の15~16時にいたので敷地内の公園で遊んでる子供と談笑する老人だらけだった。帰り道に団地に入ってくる老人ホームの送迎車とすれ違ったのがなんか印象的。
最初の画像の地図は団地の一部分で他にもブロック?がある。その間に小さな商店街があった。団地の中で生活を完結させることもできるのかもしれない。
全然違うけど目にした中では1番良多と淑子が歩いてた風景に近いもの。緑がとにかく多い。
実際に行ってみて予想以上の広さに驚きつつ、かつてはここが庶民の憧れの対象で、多くの家族が住んでいたんだなあと、今では持て余し気味な感じに少し切なくなりました。独居老人と思しき人も多かったし。この団地というロケーションも「なりたいものになれなかった存在」という点で登場人物たちと一致しているとパンフレットで監督も仰ってましたけど、なんかそういう哀愁が漂ってましたね。
思い入れのあまり長くなってしまいましたけど以上です。読んでくれた方ありがとうございましたー!