映画:オールタイムベスト10の話('17 1/16現在)。
突然ですが、今までちゃんと決めたことのなかったオールタイムベスト10を考えてみました。と言ってもちゃんと映画を観るようになってから3年半ぐらいしか経っておらず、本数で言えば550本程度しか観ていないのですが。
邦画10→洋画10→混合10の順で。
〈邦画〉
10位:生きる (1952)
監督:黒澤明
主演:志村喬
観た中で一番励まされた映画。
余命が幾ばくもないことを知り怯える老人、あることをきっかけに(文字通り)お役所仕事をやめて余命を燃やす老人を志村喬が全身で表す。特に暗闇に光る眼が忘れられない。僕は「例え死ぬ半年前でも人は変われるかもしれない、始めるのに遅いことはない」というメッセージと捉えた。誰もがそうでないというバランスのラストも綺麗事のみに終始していなくて好き。
9位:秋立ちぬ (1960)
監督:成瀬巳喜男
主演:大沢健三郎
観た中で一番嬉しい発見だった映画。
たまたま空いた時間に初めてふらっと入った池袋新文芸坐で出会った作品。
秀男は父を亡くし田舎から母と東京に出てきたが、母は住み込みで働く旅館の客と駆け落ちしてしまう。都会暮らしに馴染めない秀男だったが、旅館の娘の順子と仲良くなっていく。
二人の子供がお互いを居場所とし仲を深める様がとても微笑ましくも切ない。「~ずら」「~じゃん」と田舎訛りが抜けない小六の秀男くんと小四にも関わらずやたら「大人をわかった」ようなことを言う都会っ子の順子ちゃんのやりとりが笑いを誘うのだけどどこかやりきれない感じ。それは彼らが絶えず大人の都合に振り回されているから。恐らく子どもであるということの良し悪しを同時にスクリーンに投影しているからなのだと思う。
鑑賞後に調べるとソフト化されていないという。口惜しいのと同時に貴重な機会に巡り会えたと少し嬉しくなる自分もいた。
8位:CURE (1997)
監督:黒沢清
主演:役所広司
観た中で一番怖い映画。
入江悠監督の「黒沢清作品は『はっきりした私(主人公)とあいまいなあなた』というテーマに貫かれているという指摘はまさしくと思った。あいまいな存在に主人公が侵略されるにつれ、スクリーンに映る全体もその色に染まっていくような感じ。ひいてはそれが観たあとの僕らの日常にも残像として焼きついて景色が違って見える感覚がこの作品にはある。街中で独り言を喋っている知らない人を見ると確実にこの映画を思い出す。
詳しくは個別記事で。
7位:シン・ゴジラ (2016)
主演:長谷川博己
観た中で一番圧倒された映画。
それは展開のスピーディーさ、情報量の多さ、画面に映るもの、耳からはいるものあらゆる意味において。前情報なしでこの作品世界に入り込めたことで、今かかってる映画を映画館に観に行くことの喜びも改めて感じられた。
僕は特撮作品が好きなのでオールタイムベストを決めるなら一本は入れようと思ってたけど、その枠は迷いなくこの作品にした。
詳しくは個別記事で。
6位:何者 (2016)
監督:三浦大輔
主演:佐藤健
観た中で一番俺の映画。
語り尽くしたので最早何も言うまいという感じすらある。
自分が今このタイミングで公開されたのもそうだし、内容的にもドンピシャだった。
詳しくは個別記事で。
5位:SR サイタマノラッパー (2009)
監督:入江悠
主演:駒木根隆介
観た中で一番映画の多様性を感じた映画。
主人公は何かを達成するわけでもないし、むしろ映画開始時より後退してる。
ダメでみっともないけど、だからこそそこに目を向け目を逸らさない。
観たのが映画を観るようになってすぐだったというのもあり、こういう映画もあるんだと驚いた。
一回目はラストに困惑したけど、エンドロールを見ている内にキャラクターたちへの思い入れが深まってその場で二回目を見始めた稀有な作品でもある。
そういうのもあってやっぱり1が一番好きかな。
4位:あの夏、いちばん静かな海。 (1991)
監督:北野武
主演:真木蔵人
観た中で一番美しい映画。
主人公はまずしい格好だし、サーファーたちのルックはモロに90年代風でクソダサいし、サーフィン映画なのに海や砂浜も汚い。なのになぜか異様な美しさを感じるあたりやっぱり北野武なのかもしれない。ファーストカットから素晴らしい。あと音やセリフが少なくて作業に適しているので一時部屋にいるとき延々流していた。
僕はどうしてもラストのショットの連なりが好きすぎてならない。もうどうしてもあの河原さぶの表情で泣く。
3位:私たちのハァハァ (2015)
監督:松居大悟
観た中で一番作り手の優しい眼差しを感じた映画。
自分たちが世界の中心と思っているようなノリ(街中にめっちゃいる)の女子高生四人組がクリープハイプ(バンド)のライブのため勢いで北九州から東京に自転車で繰り出すのだが、勿論一筋縄で行かず、世界の広さやままならなさ、自分に出来ること、そして出来ないことを思い知り鼻っ柱を叩きおられる話です。甘やかしがほぼ感じられず、ハッキリ若さの愚かさの部分にスポットを当てている。ただ本当に感動したのはラストシーンで愚かさ込みで彼女たちを肯定する目線を感じたこと。これは前述のサイタマノラッパーや、これから挙げる幾つかの作品にも通じる要素ですが。
単純に全編通して四人が異様なリアリティを発揮していて、かつて女子高生だった人やそれを見てた男どもはそれだけで面白いこと請け合い。
2位:椿三十郎 (1962)
監督:黒澤明
主演:三船敏郎
観た中で一番面白いと思った映画。
勉強のために観た『生きる』とこの作品が良すぎて黒澤明フルマラソンをやった思い出。とにかく三船敏郎がかっこいいし話も単純明快で面白い。何より素晴らしいのが尺が96分。
詳しくは個別記事で。
1位:そこのみにて光輝く (2014)
監督:呉美保
主演:綾野剛
観た中で一番「観て良かった」と思った映画。
どん底にいる男女が引力とか言えないような力に導かれて距離を縮めていく様に「これが映画か」とテアトル新宿の暗闇で思った記憶。加えて一人の優しい若者が凶行に及ぶまでの心の動きが克明に静謐に描かれている。撮影、音楽、役者のすべてがこれ以上ないように思えるのは、キャストとスタッフがこれ以外ないハマりかたをしているからなのだろう。質、内容ともにベスト邦画とさせて頂きました。
〈外国映画〉
10位:明日、君がいない (2006 オーストラリア)
監督:ムラーリ・K・タルリ
主演:テリーサ・パーマー
観た中で一番忘れられない映画。
冒頭、学校内で誰かが命を絶つ。話はその日の朝に戻り、6人の高校生たちの悩みや問題が互いに交差しながら描かれていく群像劇。
ネタバレはしたくないので詳しく言えないけど、僕はこの当時19歳の監督の意図に見事にひっかかって、結果的に反省した。賛否分かれる作品だし重いテーマを扱ってるけど未だに頭にこびりついてたまに思い出す。学生たちのインタビュー映像が逐一挿入されたりして作品として良く出来てるのかどうかはわからないけど、メッセージ性の強さという一点でインパクトがある作品だった。入れるか迷ったけど入れた。
9位:グラントリノ (2008 アメリカ)
監督、主演:クリント・イーストウッド
観た中で一番重みを感じた映画
コワルスキーがキャビンでバドワイザー飲みながらタオを見守るシーン最高。
頑固爺さんが近所の若いのと交流して心を開く話と言えばそれまでなんだけど、その骨子の周りに人種・戦争といったアメリカという国にまつわる要素やイーストウッド自身の人生で重ねてきたものが重層的に肉付けされているからこその感動があったと思う。
勝手にアメリカ映画=家族愛みたいなイメージを抱いていた頃だったので、それを裏切ってくれたストーリーも嬉しかった。血縁関係とか人種とか関係なく受け継がれていくものがあるってことなのかもしれない。
余談だけどこの映画を撮ったあのイーストウッドが行き過ぎたポリティカルコレクトネス主義社会に辟易した結果トランプ支持派にいるってのがなんか皮肉。その理由にこの映画の脚本を「ポリティカルコレクトネスに欠ける」と言われたエピソードを例に挙げててちょっと悲しいぞ。
8位:最後まで行く (2014 韓国)
監督:キム・ソンフン
主演:イ・ソンギュン
観た中で一番意地の悪い映画。
以前「韓国映画の魅力は主人公を虐め抜くSっ気にあると思う」って書いたけど、それが最もエンターテインメントな形で発揮されてて最高に面白い作品(ちなみにシリアス方向で発揮されてて好きな作品は『息もできない』) 。
汚職警官の主人公が母親の葬儀途中に「科に財務監査が入った」と連絡を受け、中抜けして署に車を飛ばしてる途中で人をはねてそれらの火消しに奔走しまくる話。もうあらすじが酷い。それら隠蔽のプロセス一つ一つが絵ヅラとして間抜けだったり、意外な邪魔が入ったりしてバレそうになる様がいちいち笑える。主人公は大体こんな↑感じの顔をしている。
自分はこんな目に逢いたくないが見ている分には最高に面白い。映画の良いところだ。
7位:バッファロー'66 (1998 アメリカ)
監督、主演:ヴィンセント・ギャロ
観た中で一番愛らしい映画。
主人公の印象が冒頭とラストで一番良くなった映画でもある。初見の感じの悪さにちゃんと理由があって納得度も高いのがいい。しかもとてもありふれた理由笑
「最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた」というキャッチの通り、出所したばかりの主人公の下に天使のようなクリスティーナ・リッチが現れる。色も全体的にめっちゃ白いし意図的なんだろうけど最早おとぎ話なレベルで天使。彼女を通して主人公ビリーの境遇が明らかになるにつれもう彼がたまらなく好きになってしまった。
もうラストはあれ以上ないと思う。愛すべき作品。
6位:イントゥザストーム (2014 アメリカ)
監督:スティーヴン・クォーレ
観た中で一番登場人物に「頑張れ」と思った映画。
正直B級ディザスター映画だと思ってナメていた分、いやそれを抜きにしても人間ドラマの部分で非常に満足度が高かった。こんなに登場人物に死んで欲しくないと思った映画もそうない。
冒頭→(竜巻で死に際に直面した)中盤→(竜巻を経た)終盤の主人公たちのスタンスの変化にとても感心。手持ちカメラで撮ってる意味もちゃんとある。とてもよくできたドラマだと思います。竜巻が大迫力なのは言うまでもない。特にストームにイントゥするカットは出色。劇場で観られる機会があったら是非観て頂きたい。しかも89分!!!イントゥせよ!!!!!
5位:トレインスポッティング (1996 イギリス)
監督:ダニー・ボイル
主演:ユアン・マクレガー
観た中で一番かっこいいと思った映画。
これはもうラストが本当に好きですね。元々映画のえの字も知らない高校生の時にUnderworld目当てで観たんですけどこれ以上ないかかり方してて。あの曲が流れだすタイミングがマークの決断を物語ってる。過去の自分と決別する瞬間。
そういう意味で今年公開の続編が蛇足にならないことを祈る…。
4位:22ジャンプストリート (2014 アメリカ)
監督:フィル・ロード、クリストファー・ミラー
主演:チャニング・テイタム、ジョナ・ヒル
観た中で一番笑った映画。
映画で腹が痛くなるぐらい笑ったのはこの作品が唯一かもしれない。ジョナヒルが警部の娘とヤったことを知った時のチャニングテイタムとビュッフェで暴れるアイスキューブの時点で5億点です。前作じゃなくこっちを入れたのはアイスキューブ補正がデカい。映画館で観てみたいなあ。
3位:クリード チャンプを継ぐ男 (2015 アメリカ)
監督:ライアン・クーグラー
観た中で一番燃えた映画。
『ロッキー』の当時の感動が本当の意味で僕らの世代に蘇ったということなのかもしれない。
老境に達したロッキーと、ロッキー達の戦いに憧れた若者の最高の共闘はいつ観ても僕を奮い立たせてくれる。
詳しくは個別記事で。
2位:フォックスキャッチャー (2015 アメリカ)
監督:ベネット・ミラー
主演:スティーブ・カレル
観た中で一番悲しい映画。
「なぜ大財閥の御曹司は、オリンピックの金メダリストを殺したのか?」というキャッチが気になって、特に評判も聞かずにふらっと観にいったら冒頭5分で「あ、いい」と直感した。「主人公はレスリングの金メダリストでありながら名声や富から程遠い生活をし、日々の生活に満足していない」という事実が静謐なタッチの画面からひしひし伝わってきたから。
この予感を最後まで裏切らない傑作だった。自分にないものを他者の中に見つけてしまったのに手に入れることが叶わなかった悲しい男の話。
1位:クロニクル (2013 アメリカ)
監督:ジョシュ・トランク
主演:デイン・デハーン
観た中で一番影響を受けた映画。
超能力を手に入れた高校生3人がその様を自分たちのカメラで撮影し始めるが、段々エスカレートしていく力の行使で3人の関係性に変化が生じていく話。
序盤のほのぼのバカ男子トーンから一転、中盤以降は主人公アンドリューの家庭環境や自身の「ある失敗」による凶行が描かれる。
初めてシネマカリテで観終わった時は茫然自失でしばらく立ち上がれなかった。しばらく3人のことばかり考えていた。同時に映画ってこんなに面白いんだな、もっとこういう作品に出会いたいなと思うようになった。
今映画館に通ったり家で過去作を観たりするようになったきっかけの作品というのもあるし、単純に一番登場人物を身近に感じたし思い入れがあるからというのもある。
文句なしの個人的ベスト。
というわけでオールタイムベスト10はこちら。
〈混合〉
10位:シン・ゴジラ (2016)
9位:何者 (2016)
8位:SR サイタマノラッパー (2009)
7位:あの夏、いちばん静かな海。 (1991)
6位:椿三十郎 (1962)
5位:クリード チャンプを継ぐ男 (2015)
4位:私たちのハァハァ (2015)
3位:そこのみにて光輝く (2014)
2位:フォックスキャッチャー(2015)
1位:クロニクル (2013)
案の定映画館で観た最近の映画が多くなっちゃってますけど…笑
これがどんどん塗り替えられてるような出会いがあればいいなあと思います。
じゃまた。