新作映画118: 『羊の木』
監督:吉田大八
出演:錦戸亮、松田龍平、水澤紳吾、優香、市川実日子、北村一輝、田中泯、木村文乃、松尾諭 他
※内容に触れております※
『スリー・ビルボード』に続いて、吉田大八というだけで一切何も知らずに観た。というのがあって明らかに様子がおかしい人たちばかりが街にやってくる最序盤は楽しんだ。銘々掴みとして個性的。
その中でも松田龍平演じる彼の導入はそれまで主人公が行ってきたルーティンをぶった切るという方法で異質さを表現していて良かったと思う。まあこれ観てる時は忘れてたんだけど、観終わってみるとあの飯屋の前でのやりとりで最初っから他の5人の中から更に浮き出た存在ということを表してたんだなという納得をした。
ただ6人がそれぞれの場所に収まった〜中盤にかけて、上司と二人きりの部屋でプロジェクトの説明を受けるとことか、倉庫で幼馴染3人がバンド練習するとことか、観ていてシンプルに退屈さを覚えることが多くなってきた。一応上司が「6人が結託したらとんでもないことになるよ」ということを匂わせることでサスペンスが発生したから、じゃあ北村一輝演じる男は台風の目になって面白いことになるだろうという期待で観ていた。多分ここで前述の冒頭の松田龍平の導入のことを忘れたんだと思う。
結果的にいろんな意味でその期待は裏切られたと言っていい。一つはジョーカーが北村一輝でなく松田龍平だったこと。さすがにあんなわかりやすいキャラ付けの北村一輝が悪さするだけとは思ってなかったけど、松田龍平が息をするように彼を殺すシーンはさすがに驚いた。
導入の飯屋の前でのやりとりは、会話として見れば「主人公がいつも言ってることを初対面の彼が先んじて言う」という意気投合の予感を示すものだけど、映画的に見ればそれまでのシーンとしてのルーティンを壊す異質の存在という意味でもあったということなんだろう。
そう考えれば最終的に彼に話が集約されていくのは納得できなくもない。映画化にあたって単純化されたレイヤーとして考えれば「一般市民→殺人の前科持ちの人たち→松田龍平」と受け入れ難さや嫌悪のハードルが上がることになるわけだから。
自分はこの映画に物足りなさを覚えるわけだけど、一つの理由は多分主人公の弱さにと思う。アクの強い前科者を受け入れる市役所職員だから強いキャラ付けをせず、彼にあまり自発的な行動もとらせず観客であるこちらに投げかけている意図も感じなくはない。でも、いかんせん6人の受け皿に徹しすぎている感じはした。明らかにヤバい雰囲気の中、夜中に崖を見にいくのに付き合ったりするのには話を回すために都合良く動かされてる感じすらしてしまった。
僕は「土着信仰が受け継がれる閉じた街にやってきた6人の異人」という設定から社会的なせめぎあいという真面目さをイメージしていた。それをあくまで個人レベルの話に留めたのは良いんだけど、そこの決着というか決断を人ではなく神という人知の及ばないスケールの存在に委ねたのにモヤモヤする。これは上述の主人公の薄さにも繋がるところ。そこを面白さとして取ることも可能だとは思うけど自分にはいまいちピンとこなかった。
監督の前作『美しい星』に似た後味のようにも思うけど、あの突き放され方に感じる謎の快感みたいなものはないかな。でも前作と同じく感想書くのは楽しかった。吉田大八監督は最近は映画を持ち帰る楽しさに長けた作品作りをしているように思う。次も楽しみです。
新作映画117: 『スリー・ビルボード』
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーナンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ、ルーカス・ヘッジズ 他
※ネタバレしてません!!※
僕らのモテるための映画聖典メルマガ読者のろんぺさんが激推ししていたのと、アカデミー賞で騒がれているので観た。ろんぺさんは「何も知らずに観るのがおススメ」と言ってたので「3枚の看板が立ってる」ということ以外一切何も知らずに観に行った。出演者も監督もジャンルも知らずに観る映画というのは新鮮で、「今年はこンな感じで流されていこうかな」とすら思った。いきなり飛び込んだり。なかなか難しいかもだけど。
「さんまいのかんばん」って書くと寓話みたいだけど、内容にも結構寓話っぽさを感じた。なんとなくそんな感じがした。
悲しみと怒りと後悔が人をあらぬ行動へ導くことがある。これはもしかしたらこの作中でついに描かれなかったある存在にも言えることかもしれない。描かれるところで言えば、フランシス・マクドーナンド演じる彼女は過激である種のモラルを欠いた行動で人々の目を引こうとする。感情的な動機で行われる衝動的な行動(多分計算済みではなくたまたま目に入ったからやった)が憎しみの連鎖を生み出す。しかし感情というのものに一概な悪と断じ切れるものもなく、それは恩人の遺志を自分なりに咀嚼した結果のものであり得る。もしかしたらこれは人の歴史にも当てはまることなのかもしれない。そういうことが連綿と続いてきたのかもしれない。
ではそのループを抜け出すためのきっかけは何か。この映画ではそれを「許し」として描いている。ありふれていて道徳的な教え。ここに寓話っぽさを感じたのかもしれない。そのメッセージが明確に打ち出される病院のシーンにはかなりグッとくるものがあった。彼には最初からそうする優しさがあった。しかし相手の素性を知って一度その優しさを引っ込めてしまう。一呼吸(か何日後かわからないけど)おいてその手を差し伸べる。その勇気が人の歴史も変えるかもしれない。
この映画を観た直後「いろんな顔を見た」という印象を感じた。この映画に出てくる人の多面性、不安定な面も垣間見た。人はお互い憎しみあって許し合う。許し合えれば、立ちはだかる問題を綺麗に解決できるかどうかはわからないけど、でも少なくともそれ以前よりはマシな方向に向かうだろうという希望をもって物語が終わる。
マーティン・マクドナー監督が観客の僕らにパスしてきた。次に繋げるべき優しさのバトンを。
2017年新作映画ベスト10・ワースト3、各種個人賞の話。
みなさん、あけましておめでとうございます。もう節分すら終わったというね。今年はちゃんと観た直後の感想をツイッターに上げて、それを足がかりにスムーズにブログに起こせるようにしたいですね。しますね。
並びに当ブログも皆様のご愛読のおかげで丸2年続きまして、トータルで22800件、この1年だと12000件ほどアクセスして頂いたそうで。大変有り難いことです。ありがとうございます。
というわけで2017年ベスト10いっくよー。
10位:マンチェスター・バイ・ザ・シー
キャラクターに対する作り手の優しさに溢れた目線か描き方に現れているところがやっぱり好き。ちなみにそういう点で似た印象を持った作品は黒澤明の『續姿三四郎』だったりする。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/06/06/130711
9位:ビジランテ
地方都市のリアルが凝縮された筆致に打ちのめされる。持って帰ったという意味では2017年一番。
http://qml.hatenablog.com/entry/2018/01/08/172337
8位:わたしたち
ベストラストシーン賞。結構マジで人類の8割ぐらいは観た方がいいよ、この映画は。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/11/19/125622
7位:スウィート17モンスター
もし去年『何者』がなかったら今年のベストだったかもしんないです。自意識暴走系映画にはいつだって胸打たれるし、単純に笑わせてもらいました。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/12/27/110437
6位:ジャスティス・リーグ
マーベルとかDCとか監督とか抜きに好きです。はぐれ者達がやむを得ない理由からユナイトし、チームの良さを知ってビクトリー。むしろ前作要素が足かせになってた感。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/12/15/105943
映画を観てて先の展開を予測したりすることが一切できない僕的には2017年で単純に一番楽しんだ映画かなと。ひいきの入江悠作品が2本もランクインしてしまったけど、監督抜きにしてもやっぱ入るよ。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/06/12/130018
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/07/06/140817
今思えば特別賞とかチャンピオン枠とかそんなとこにすればよかったかなと思わないでもない。約10年前に出会った作品が今の僕のどツボを突いてくれた嬉しさ。素直じゃない構成すら好ましく思える。続きにも期待してます。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/10/19/192924
3位:ザ・コンサルタント
取り立ててツボに入ったとかいうわけではないのだけど、年末の最後まで頭から離れなかった。結局主人公のウルフが大好きなんですよ。あまりこういう見方はしないけど、総じてよくできた映画だなあと思う。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/02/24/133755
2位:皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
年明けにイタリア旅行に行って、その時感じた街への印象が思い起こされたというのもあり「今年の一本」という意味ではトップ。いつだってヒーロー誕生の瞬間に立ち会えることには喜びを感じる。そしてそれが原初の熱と優しさをもって描かれていたことに感動した。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/07/14/111758
1位:あゝ、荒野
とにかく引きずった。2017年一番引きずった。BRAHMANの「今夜」もめっちゃ聴いた。新宿に行くとあの二人は今でもその辺で走ってるんじゃないかと思う。そうあってほしいと思う。木村多江が弁当を食うカットは孤食シーン殿堂入りです。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/11/14/110146
次点:新感染 ファイナル・エクスプレス、パターソン、映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/11/07/152054
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/11/02/133235
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/05/29/142922
こっからワースト3!
何がしたいのか、何故こうなったのか、良いと言ってる人が評価してるポイントなどは全然理解納得できる。んだけど、キャラが潰されてる上に尺が長くて面白くないのは受け入れ難い。
http://qml.hatenablog.com/entry/2018/01/14/212153
ワースト2:パワーレンジャー
もうこんなことになるぐらいなら戦隊フォーマットやめろや!2時間(本家スーパー戦隊6話分の尺)あったのに全然キャラが立ってないし変身して勝利するカタルシスも薄い。
続編が動いてるって噂も聞いたけど果たして。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/08/06/130016
ワースト1:スプリット
迷ったけど純粋な楽しめなさではこっちが勝る。全てのリズムが合わなかった。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/05/23/143409
超ワースト:超スーパーヒーロー大戦
メチャクチャで歪なりに楽しませてくれてた東映ヒーロー春映画の終焉。単なるダメな映像に成り下がった。来年はやらない噂が出たがもうこれならいいかなという感じ。
http://qml.hatenablog.com/entry/2017/03/30/164124
ここからは各種個人賞!
村上虹郎(武曲 MUKOKU)
ギャスパー・ウリエル(たかが世界の終わり)
主演女優賞
ヘイリー・スタインフェルド(スウィート17モンスター)
新田真剣佑(ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章)
般若(ビジランテ)
橋本愛(美しい星)
遅くなりましたが本年もゆるーく続けて行くつもりです。よろしくお願い致します。
新作映画116: 『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』
監督:ライアン・ジョンソン
出演:デイジー・リドリー、ジョン・ボヤーガ、アダム・ドライバー、オスカー・アイザック、マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、ルピタ・ニョンゴ、アンディ・サーキス、ドーナル・グリーソン、アンソニー・ダニエルズ、グウェンドリン・クリスティー、ケリー・マリー・トラン、ローラ・ダーン、ベニチオ・デル・トロ 他
スターウォーズシリーズ過去作へのスタンスからEP7・フォースの覚醒の思い出と感想、新宿でのEP8・最後のジェダイ最速上映の様子までも併せて。感想だけ読みたい方はしばらく飛ばしちゃってください。
【僕のスターウォーズに対するスタンスと前作『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(とその思い出)、今作の事前の期待値】
(ウルトラマンを除いたら)恐らく初めて映画館で観た映画は『〜エピソード2 クローンの攻撃』だった気がする。ライトセーバー戦が子どもながらにカッコよく見えて、ライトセーバー のおもちゃを買ってもらい、SWファンの山田くんとチャンバラをしていた(ちなみになぜかクワイ=ガン・ジンモデル。山田くんはアナキンモデルで羨ましかった覚えがある)。
ただそこからSWにハマったかといえばそんなこともなく、シスの復讐は観なかったし、過去作に触れることもなかった。フォースの覚醒が公開される折も「ふーんやるんだ」ぐらいのテンションだったのだけど、その直前に知り合った秋山さんに激推しされて公開1ヶ月前ぐらいから過去6作を観た。ちなみに一番好きななのは『〜エピソード3 シスの復讐』。ユーワーチョーゼンワン!
シリーズを(半ば義務的に)一周しただけで特にハマることもなく、そこそこのテンションで公開二日目、当時クローンの攻撃を観た映画館に13年越しにフォースの覚醒を観に行った。ほぼ満員の座席に座ると隣の男子小学生3人組がカイロ・レンのライトセーバーの出力が不安定だみたいな話をしていて「ああ俺はSWを観に来たんだなあ」などとぼんやり思った。
短めの予告が終わってルーカスフィルムのロゴが映し出されると客席から拍手が起こる。今まで映画館にいてこんなことはなかったのでワクワクする。皆が固唾を飲んで「a long time ago in a galaxy far far away」の文字を見守る。一瞬の静寂。デーン。「STARWARS」。おなじみのロゴとテーマ曲で歓声とともに拍手。このあたりでテンションがマックスになる。「ルーク・スカイウォーカーが消えた」で僕を含めどよめく場内。いやあ、楽しかった。この時点で映画体験として最高。
肝心の内容はと言うとこちらも最高だった。間違いなくシリーズで一番好きな作品だと一度で確信できた。スターウォーズの世界に住む新しい世代のキャラクターたちの華やかな紹介と手に汗握る活劇として本当に楽しんだし、とにかくレイ、カイロ・レン、フィン、ポー・ダメロン、BB-8と主要の新キャラが銘々魅力的で大好きになってしまった。観終わった直後既に「早くあいつらの次の活躍が観たい!」と思っていた。
それより遠い以前に『LOOPER ルーパー』は観ていて、フレッシュな描写にかなり楽しんだタチだったので、そのライアン・ジョンソンが続編のメガホンを撮ると聞いて純粋に楽しみな気持ちだった。というわけでトータル期待値はかなり高めで臨んだ。
【(一般公開初日の)最速上映の様子】
公開初日の12月15日金曜、日付が変わった瞬間の回で観てきた。前述の秋山さんについて行く形で行ったのだけど、せめてライトセーバー は用意しようとのことだったので当時の憧れであったアナキンモデルを6000円ぐらいで買った。あとスターウォーズのロゴがでかでかとプリントされたパーカーも買った。
ロビーにはライトセーバーを持ったジェダイやらシスやらが散見され、170センチぐらいの巨大ポーグとかカイロ・レンもいた。満員の劇場に入るとほどなくしてふつーに普段通り、いや、普段より長い予告を見せられて非常に辛かった。インフィニティ・ウォーのフル予告とか初めて映画館で見れてよかったはよかったけど今は違うだろっていう。
上映後の様子なんだけど拍手がまばらで観客の様子も笑顔で満足という感じでは全くなく、首をかしげる人も見受けられた。うん、僕もその一人だったんだけど。
【最後のジェダイ、本編の感想】
まず、その、フォースの覚醒の新キャラたちの活躍への期待という意味では非情なレベルで裏切られたと言ってよい。
レイちゃんは特に何もしてないし、BB-8はまあ可愛いんだけど抱き締めたくなるような愛らしさがすっかり抜けていたように感じた。フィンは山崎邦正みたいな女(こいつの悪口は止まらなくなるのでやらないけど一つだけ言いたいのは安くないお金払って観る映画館のスクリーンに大写しにしていい顔の人ではないということ)となんかやってるし、ポーはダメダメロンだった。
つまるところ俺が惚れたキャラクターの皆が「スター・ウォーズの今までとこれから」的な今回の自己言及的なテーマの犠牲になってるのが腹立たしかった。多分自分はシリーズのファンではなく『フォースの覚醒』のファンなんだと思う。ついでに思ったけど、自分が映画に観るものは物語やテーマより人間やキャラクターそのものなのかもしれない。
てゆーか熱心なファンの人の中にも今回のルークを見て自分がEP7のキャラに感じることと同じ思いを抱く人もいるんじゃないのか。自分の抱くキャラ像はそんなんじゃなかったし、見たかったのもこれじゃないというようなさ。
ルークついでに言うとルークが燃え盛る壁の裂け目から出てくシーンは心底かっこいいと思った上に総攻撃を受けて余裕で服を払う仕草にシビれた身としては、実は分身(?)でしたというのはそれまでのアゲを上回るレベルでガッカリしました。しかもそれで死ぬのお前?マジで?嘘だろ?
そんな中「こいつだけ前へ進み続けている」と思ったのはカイロ・レンさんその人。この退屈な作品を貫く内省的なスタンスとキャラクターの方向性が唯一一致した人物とも言える。自分がベイダーの後釜でないこと(ベイダーのコスプレしてること)をハッキリ指摘され「もう全部ぶっ壊して新しいことやろーぜ」というところまで振り切るところには、直前のライトセーバー戦で劇中初めてアガったのも相まってカタルシスすら感じた。頑張れカイロ・レン。お前が新たなる希望だ。
というわけでEP9はマジで今回の三部作のキャラたちの花道になるようなのホント頼むよJJという感じです。その後は恐らく観ないと思います。
新作映画115: 『ビジランテ』
監督:入江悠
出演:桐谷健太、鈴木浩介、大森南朋、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、般若、坂田聡、岡村いずみ、菅田俊 他
初日と、10日あけて2回観た。1回目は正直何も分からなかった。ただただ郊外の街で起こる生臭いいざこざを目撃したのみだった。2回目で何の映画なのか、自分の中である程度まとまった感じはした。
※ネタバレしてます※
ちなみに無人島キネマPodcastに紹介してもらったものを貼り付けただけ。
http://ussii.net/cinema/2017/12/22/【航65b僕たちの『ビジランテ』(感想メール特集/
僕はこの映画を「分断」の話だと感じた。
まず主人公である3兄弟は、冒頭、父親の暴力によって一郎が家出することで早くも離れ離れになってしまう。何十年ぶりに3人で再会したかと思えば、二郎は一郎の持つ公正証書を撮影して早々と去ってしまう。川のシーンでは話し合う余地もない。三郎が一郎を兄弟3人での食事に誘うシーンも、恐らく一郎の薬物依存による手の震えでフイになってしまう。
そして彼らの周囲の人物も様々な形でバラバラになってゆく。岡村いずみさん演じるデリヘル嬢のアヤは一郎の暴力で店を辞め、一郎が死ぬことで間宮夕貴さん演じる彼女は失踪、三郎が死ぬことで残ったデリヘル嬢たちは結果的に職と居場所を失ってしまう。
自警団サイドに目を向ければ、自警団に入ったあの若者二人は逮捕され、在日中国人たちは住む場所を失い恐らく離れ離れになったことだろう。
では物語が始まる時から何も変わっていないのは誰か。それは市議会議員とグルのヤクザの頭。変わっていないどころか自分らの私服を肥やすためのアウトレットモール建造に着手する。
二郎はそのメンツの中で唯一自分が虐げる側にいることを自覚していた。三郎を事務所の出口で締め出したり、一郎が死んだことを察したから。しかし彼は人として弱く、妻子という守るべきものを持つため降りることができなかった。
虐げられるもの、或いは搾取される側の者たちだけが、死という形も含め分断され、街を牛耳る者だけがそのまま土地の上に居続ける。これは現代日本にに実際にある構図なのかもしれない。それをノワール映画というある種のデフォルメを用いて2時間で映画的に見せてくれるところが素晴らしい作品だと思う。
あと、無人島キネマのウシダトモユキさんの言ってた「この映画には橋がない」というのも分断というテーマを象徴しているのではないかと思う。「ないもの」に着目するのって難しいけど解釈の幅が広がるようで面白い。
ちなみにベスト台詞は般若さん演じる大迫さんの「時間がぬぇーずぉ!」。2017年の助演男優賞。
新作映画114: 『仮面ライダー 平成ジェネレーションズFINAL』
『仮面ライダー 平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』
監督:上堀内佳寿也
出演:犬飼貴丈、飯島寛騎、渡部秀、三浦涼介、福士蒼汰、佐野岳、西銘駿、赤楚衛二、高田夏帆、瀬戸利樹、松本享恭、岩永徹也、松田るか、小野塚勇人、黒崎レイナ、甲斐翔真、土屋シオン、柳喬之、滝裕可里、関智一、田中卓志、水上剣星、前川泰之、大槻ケンヂ 他
仮面ライダー関連の映画は毎度前振りが長すぎなので思い切って割愛!
まずビルドの2号ライダーであるクローズの成長譚としてとてもよかった。実質主人公。テレビ本編で自身のアイデンティティや周りの状況に対して悩み葛藤する反面ヒーロー像としては完成されている主人公の戦兎をメインに据えず、その逆であまり悩まず我が道を行くタイプだけど仮面ライダーになって日が浅く戦う理由に確信が持てない万丈にレジェンドライダー達の背中を見せて学ばせるところが上手い。吹っ切れて変身するシーンは派手な演出と相まって非常に熱くなった。
(余談だけど上記の凹凸がこのコンビのベストマッチたる理由だと思う)
反面(去年のDr.パックマンのゴーストもそうだったけど)エグゼイドのアフターストーリーとしてはやや弱いかなあとも感じた。まあVシネ控えてるってのは勿論あるんだろうけど。ただCRの面々が病院のロビーにまで溢れる患者たちを看病するシーンはテレビ版の終盤にもあったんだけど、今回はそれを長回しのワンカットで捉えていたのがすごくよかった。インタビューでキャストの人も言ってたけど、ここでエグゼイドメンバーの1年の積み重ねが感じられて感慨深いものがあった。黎斗は御成と楽しそうだったね。
そしてなんつってもオーズ。ちなみに僕のフェイバリットライダー。放送終了から7年(!)経ったにも関わらず主人公コンビの2名がオリジナルキャストで復活。第一報を聞いた時は奇声を上げる勢いだったが、一抹の不安がないこともなかった。
それは多くのオーズファンと同じく、一重にアンクの扱いに関する心配だった。欲望に飢えたメダルの塊だった彼が人間が抱くような満足を胸に消滅した感動のテレビ版ラスト、最後の共闘の後「いつかの明日」での再会を誓った『MOVIE大戦MEGAMAX』(坂本浩一監督)を経て、晩節を汚す蛇足のような展開になったらどうしよう、スクリーンを破くかもしれない…などと早く二人に会いたい気持ちと同時に戦々恐々としていた。
結果的に全くの杞憂だった。そこには紛れもなく映司がアンクに誓った「いつかの明日」があった。
前述の『MOVIE大戦MEGAMAX』の後の最初のゲスト出演(というか今回のような懸念を胸に抱かせた理由の一つであるクソみたいな扱いの客演)だった『スーパーヒーロー大戦』のメイキング動画で(同時期に発売された)Vシネスピンオフの「仮面ライダーW RETURNS」をパロって「オーズリターーンズ!テロップバーン!」とか言って現場でふざけてたあの頃の渡部秀くん、本当によかったね。まあよかったねと言いつつ脚本段階からかなり関わってたそうなのでほぼ二人の尽力の賜物みたいだけど。とにかくよかった。
仮面ライダーフォーゼから6年ぶりに復活した福士蒼汰演じる如月弦太朗も、当時の親しみやすさと先輩的な頼もしさが同居していて嬉しかった。仮面ライダー鎧武から4年ぶりに本人が出演した佐野岳演じる葛葉紘汰も神様(!)としての貫禄マシマシな上にフリーターだった頃の根明感も久々に垣間見れた。仮面ライダーゴーストからは主演の西銘駿と相方の御成演じる柳喬之が出ることで話が少し進んでて笑った。敢えて言うならタケル殿は去年のDr.パックマンがとにかく最高すぎて今年は少し霞み気味だったけど。
一言言うなら今回の悪役周りは経歴や目的、手段に関する説明セリフが多くてちょっとテンポ悪かったかなとは思う。大槻ケンヂや変身アイテム、怪人体のデザインすげーかっこよかったからいいけど!
新作映画113:『勝手にふるえてろ』
『勝手にふるえてろ』
監督:大九明子
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里、前野朋哉、古館寛治、片桐はいり 他
2017年映画締め(まだレビューしてないのもある)。
映画館に玉城ティナがいた気がしたけどたぶん気のせい。と思ってたらインスタグラムにその場で撮ってた写真をアップしてて驚いた。あるんですねこういうことが。
全然興味なかったけどあんまり評判が高いので観に行った。そんな僕が言うのもなんですがいまいちノれなかった。しばしば引き合いに出され内容も似てる『スウィート17モンスター』は今年ベスト級に好きなのになあ。なんでだろう。
考えてみると『スウィート〜』はあくまで現実vs現実のせめぎあいなんだけど、『勝手にふるえてろ』は理想(妄想)vs現実の構造になってるなと。恐らく自分は理想と現実のギャップに苦しんだことがあんまりないんだと思う。常に現状を受け入れてる型というか。「幸せは自分の心が決める」という言葉があって、それに従って今が一番いいと思って生きてる。これが良いことかどうかは別としてそうやって折り合いつけてる。
だから理想のために今の現実をないがしろにしがちなヨシカのやり方があまり好きじゃないんだと思う。自分に好意があることを利用して二(このあだ名もあんまりだ)を邪険に扱ったり、同級生のアカウントを名乗って同窓会企画したりするのがさ。
※こっから展開ネタバレします※
で最終的に二とくっついて現実を受け入れるということで落とし前つけたって気にもなれてない。川が二股に分かれてて、その片方が落石や倒木で塞がれ流れが止まって、もう片方に流れるようになったのを眺めているような感じ。消去法で選んでるような。
さらに言うと過去の理想とか持ってない自分は二のポジションの人がいれば二とくっつくでしょとか冒頭から思っちゃってたから前述の理由に加えラストも響かなかった。そして自分のめんどくさいのが、でも二のことは個人的に全然好きじゃないってこと。良さがマジでわかんなかった。
だから個人的にはヨシカには二人ともぶっちぎって理想でも現実でもないところに行って欲しかった。彼女にはその二項対立から解放されて欲しかった。『紙の月』じゃないけどガラスとかぶち破って飛び降りたりして欲しかった。んだと思う。